【連載】登山犬茶々丸と共に見てきた景色「絆の証明」 〜赤岳から阿弥陀岳南稜への挑戦〜 富永 祐太さん

           

2019年5月、「元保護犬と暮らす家族の物語 セカンドストーリー」で富永祐太さんと元保護犬茶々丸くんにインタビューさせていただきました。あれから約2年、ふたりはその後も数々の登山に挑戦し、2021年冬ついに目標の厳冬期阿弥陀岳南稜を踏破!何故ふたりは過酷な山に挑戦し続けるのか___今回その想いについてお話いただきました。この連載を通じて、犬と暮らす方はもちろん、より多くの方に「犬と人の信頼の姿」そして「リスペクトし合う絆」を感じていただけたらと思います。いよいよ第5回目は、阿弥陀岳南稜への挑戦をお届けします。

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登山記録

2021年3月(茶々丸6歳)
阿弥陀岳南稜
山域:八ヶ岳連峰

※八ヶ岳南部、赤岳の約1km西に位置する標高2,805 mで、長野県諏訪郡原村と同茅野市との境にあたる山。季節問わずバリエーションルート。P3ガリーとP4のトラバースが目立った難所。
天候:曇り・霧
当日のルート:舟山十字路スタート→南稜広河原とりつき→立場岳→青ナギ→無名峰→阿弥陀岳山頂→中岳のコル→中岳沢→中岳分岐→中岳→中岳のコル→阿弥陀岳山頂→西の形→不動清水→御小屋山→美濃戸ロ・舟山十字路分岐→舟山十字路ゴール

今ある技術の向上、そして新たなる技術の習得

enkara:2018年3月赤岳登頂から阿弥陀岳南稜への挑戦までにどんな登山や経験を積まれてきたのかお伺いしたいです。
祐太さん:「阿弥陀岳南稜は季節を問わずバリエーションルートと呼ばれるルートです。雪・岩・雪と岩のミックス・雪壁・トラバースなどと色々な状況に対応しなくてはならなず、できるだけオールマイティーに技術を身に付け経験を積まなくてはなりません。
そして当たり前ですが、僕一人で行くよりも茶々丸と一緒となると難易度も更にあがります。まず今ある技術の向上、そして新たなる技術の習得。
このために、ミックスの山に行ったり、トラバースがあるルートに行ったりとスキルを磨いていきました。」


祐太さん:「より安全に行くために新しくダブルアックス(両手にアックス(ピッケル))を導入しました。ただダブルアックスですと僕の両手がふさがってしまうので、結果これまで以上に茶々丸と意思疎通ができるようになったと思います。
それを踏まえたうえで、どこまで出来るようになったか確認のために、去年、阿弥陀岳北稜に挑戦しました。茶々丸は、驚くことに人間が両手両足で登るような斜面も、切り立ったナイフリッジも岩場もあっさりとクリアしていましたね。
日本で厳冬期阿弥陀岳北稜を制覇した犬は茶々丸だけかと思われます。」

茶々丸との絆の証明


ー阿弥陀岳北稜をクリアし、いよいよ南稜への挑戦が見えてきた祐太さんと茶々丸くん。ただそこには、今までの登山とは異なる特別な想いがありましたー

祐太さん:「北稜をクリアした前年の2018年、阿弥陀岳南稜P3ガリーと呼ばれる場所で3人が亡くなられた事故が起きています。それもあり南稜挑戦という考えになかなかならなかったのですが、一緒に北稜をクリアした八ヶ岳を知り尽くしている仙人の様な仲間となら南稜もクリアできるんじゃないかという想いを感じるようになっていきました。」


祐太さん:「また、茶々丸との登山について、茶々丸が自ら進んでいく前提で『日本一の登山犬』を目指してきました。南稜をクリア出来たら『日本一の登山犬』と言えるんじゃないかと。
絆と信頼がなければ到底南稜はクリアできないので、それが茶々丸との絆の証明になるんじゃないかと___そう感じ挑戦を決意しました!」

enkara:なぜそれほどまでに強く絆を証明したいと思うのですか
祐太さん:「僕がなぜ茶々丸と共に過酷な挑戦をし続けているのか、その理由は『情熱で人と犬という生きもの種別、壁を越えて強い絆が出来るんだぞ!』ということを多くの人に伝えたいからです。
こんなにも強い絆をつくれるのに、その努力をせずに都合が悪くなれば飼育放棄し、接することをやめ家族として扱わず、無責任に離れる。その態度やマインドが僕たちの姿を見ることで変化して欲しい!そう願っています。情熱はすべてを凌駕するんです。」

最後に残るのは自分自身の為に集めてきたことじゃなく、自分以外の為に与えてきたこと


ーその後、2021年3月阿弥陀岳南稜へ挑戦したふたりは、想定よりも早いコースタイム4時間で見事に踏破を果たしました!ー

enkara:祐太さんが茶々丸くんと山を登ることで何を感じ、そして何を伝えたいのか教えてください
祐太さん:「不幸せになるために生まれてきた犬なんて1頭もいません。目の前の愛犬を幸せにできるのであれば、同時に自分も犬から幸せをもらっていると思います。
僕自身、『最後に残るのは自分自身の為に集めてきたことじゃなく、自分以外の為に与えてきたこと』という考えがあり、自分以外の誰かからもらってばっかりじゃ何も残らないと。人間よりも遙かに短い犬の寿命。
茶々丸にどれだけいっぱいの幸せや楽しい思い出を感じて、体感してもらうか___それがのちのち僕の生きる糧になると思います。」
祐太さんにとって“犬“とは?
人生

enkaraは、祐太さんと茶々丸くんの活動を陰ながらずっと応援してきました。ふたりの写真を見るといつも涙が流れます___これ程までに人の心を魅了するのは、ふたりがあまりにも真剣で、そして強く結ばれており、その全てが美しいからです。
『情熱はすべてを凌駕する』祐太さんが発する言葉一つ一つがご自身の生きる指針であり、だからこそ、こうして強く行動として表れているのだと思います。今回、また一つ大きなステージを達成し新たなフェーズを生きるふたりに、これからも心からエールを贈りたいと思います。そして、祐太さんが茶々丸くんと叶えたい全てが幸運に導かれることを心より願います。

[文/富永 祐太・構成/enkara編集部]

プロフィール

  • 富永祐太
    富永祐太(とみなが ゆうた)
    1986年2月24生まれ、東京出身
    雪山、バリエーションルート、クライムダウンなんでもこなす登山犬茶々丸と共に数々の登山に挑戦。2014年8月15日の北岳からはじまり、2016年末頃から毎週山に向かうようになる。主に自宅から200km圏内の山の日帰りが多く、茶々丸と共に、赤岳 – 硫黄岳縦走(厳冬期)、谷川岳西黒尾根(厳冬期)、阿弥陀岳中央陵(厳冬期)、阿弥陀岳北陵(厳冬期)、甲斐駒ヶ岳黒戸尾根(無積雪期)テント泊、編笠山 – 赤岳縦走(無積雪期)を経験。2020年冬季阿弥陀岳北陵踏破の後、2021年冬季冬阿弥陀岳南稜踏破!
  • 茶々丸
    茶々丸(ちゃちゃまる)
    2014年11月1日生まれ(推定)MIXの男の子 千葉県柏市にあるNPO法人動物保護団体に保護された茶々丸は、推定生後2ヶ月で祐太さんの家族になる。元々、登山が好きだった祐太さんと成犬になった茶々丸は、共に単独登山で様々な山に登る楽しみを知っていく。6歳を迎えた茶々丸は、多くの登山仲間が増え、仲間たちと共に登山にチャレンジする日々を送っている。
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VISION「私たちは循環する社会の仕組みを創る」

今までの犬と暮らす当たり前や固定概念にとらわれず、新しい情報や価値観を知ることで気づきを得るために、様々な情報発信や活動をします。最終目標として掲げる「循環する社会の仕組みを創ること」を実現するため、ミッションとして、“犬を知る“をアップデートし、より豊かな関わりで犬と人が本質的に繋がり、共に生きる姿を提案します。私たちは、循環サイクルの中でその未来を創造し実現できることを強く願いビジネスを営む社会を目指します。

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