なぜ多頭飼育が起こり、そして崩壊するのか?アニマルホーダーの心理と問題を併せて考える

           多頭飼育問題

”多頭飼育崩壊”こんなショッキングな言葉を、最近では頻繁に目にするようになってしまいました。テレビやメディアでも多く取り上げられ、どのような状態のことを指すのかは想像に難くないのではないでしょうか。過剰な多頭飼育は全国的にも問題視され、2019年に改正された動物愛護管理法では、適正な環境下での飼養や繁殖制限の義務化など、飼い主が遵守すべき責務が明確化され規制も強化されました。法律が変わるほどの社会問題である”多頭飼育問題”とは、そもそも何が原因で起きるのでしょうか。そして解決に向けてどんなことが必要なのか___今回は、多頭飼育問題が発生する背景や問題点、また身の回りで起きた際に私たちはどうすべきなのかについて考えていきたいと思います。

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多頭飼育問題はなぜ起こるのか?

なぜ?

1-1 多頭飼育問題が生じる2つの背景

対比

 ▶︎背景1:疾病や生活困窮による「ライフステージの変化」によるもの

2019年に環境省は各自治体(都道府県、政令指定都市、中核市)に多頭飼育に関するアンケート※1を実施した結果、多頭飼育問題が生じる社会的背景として、就労困難、失業による収入減少、疾病、障害等による心身の健康喪失、ライフステージの変化等による生活困窮が挙げられるとしています。また、こうした社会的背景によって生じる様々な問題の一つが多頭飼育問題であると捉えています。

病気や怪我、災害や事故などは誰しも予想することは不可能です。そして、こうした要因が引き金となり起きるライフステージの急激な変化もまた予想することは出来ず、誰にでも起き得るものであると言えます。

▶︎背景2:動物保護団体や個人ボランティアによる「過剰な保護」によるもの

過剰な保護活動を起因として多頭飼育問題に発展しているケースも目に余るようになってきました。初めは1頭、2頭の保護から始めたにもかかわらず、気づけば10頭、20頭を抱えてしまっているということも___頭数が多くとも飼養するための施設を持っている場合は、その時点で第二種動物取扱業者の届出が必要となりますが、多頭飼育問題に繋がるケースの多くは届出の義務のない、施設を持たず一般的な自宅で保護飼養している場合がほとんどです。そのため、狭いスペースで飼養する他なく、動物同士の喧嘩や怪我、事故など健康と安全も脅かされています。また、住宅密集地であれば、騒音や異臭、脱走など周辺地域への影響も甚大です。

どのような背景や理由から生じた多頭飼育問題であっても、過剰な多頭飼育はすなわち虐待です。一刻も早い段階で早期発見し、迅速な対応を必要とする、深刻な問題なのです。

1-2 多頭飼育問題が与える影響

多頭飼育問題が与える影響

またアンケート結果から、多数の動物を飼育している中で、適切な飼育管理ができないことにより3つの影響があると考えられています。

【TYPE1】飼い主の生活状況の悪化

【TYPE2】動物の状態の悪化

【TYPE3】周辺の生活環境の悪化

飼い主の経済的困窮や適切な判断力の不足などによって、適正な繁殖制限の措置(避妊去勢手術など)を講じることができず、高い繁殖能力を持つ動物はどんどん繁殖し増えていきますそして更に飼い主の生活状況は悪化し、適切な医療を受けられない動物たちの健康も脅かされていきます。その結果、異臭や騒音、害虫の発生など周辺地域の生活環境も悪化していき、悪循環が加速していくことになります。

1-3 なぜ”崩壊”するまで気づかないのか?

なぜ”崩壊”するまで気づかないのか?

▶︎飼い主の場合

ここまでに多頭飼育問題が生じる原因と与える影響についてご理解いただけたかと思います。しかし、家族の一員として犬を愛し共に暮らす私たちが唯一理解できないことは、なぜ”崩壊”するまでに至ってしまったのか、ということではないでしょうか。

この原因は”社会的孤立”が大きいと考えられています。急激なライフステージの変化に戸惑い、不安に陥る状況は誰でも同じだと思います。そんな中、相談する相手がいない、どこに相談すれば良いのか調べる術がないという人もいるでしょう。または精神的な疾患などにより、相談をするということすら思い浮かばないという状況に置かれる人もおり、過密な環境による虐待だということに気が付いていない人もいます私たちにとってのあたりまえが、ある人にとってはとても難しいことかもしれません。当事者が孤立してしまうことで問題が表面化しにくいという特性が”社会的な孤立”を進めてしまうことに繋がっていきます。

▶︎保護活動者の場合

この場合の大きな原因は”無知と過信”ではないでしょうか。多頭飼育問題を抱える、または発展しやすいケースは、第二種動物取扱業者の届出をしていない保護団体や個人ボランティアが多いため、自治体などの立ち入り検査等がありません。更に他団体等との交流もなく自己流で個人保護活動を行っている場合も多く、第三者の客観的な視点や指摘がないために、自身のキャパシティを超えていることに気づきません。保護活動を行なっているはずが、まさか虐待しているとは到底思えないかもしれません。しかし「可哀そう・助けたい」という感情のみが先行してしまい、更に冷静さを失っていくことで、多頭飼育問題に繋がっていくと考えられます。自身の対応できる範囲を正しく判断するスキルと、他者の意見を受け入れる謙虚さが必要です。

どこへ相談すれば良いのか?

どこへ相談すれば良いのか?

2-1 相談できる関係機関

私たちは普段、公的サービスや相談、支援を受けようとする際、関係する管轄の機関や部署などを考えます。例えば税金のことは税務署や区役所の税務課だったり、住民票が必要な場合は住民課や戸籍課などに相談します。それでは、多頭飼育問題が与える3つの影響について、もし私たちが当事者だとしたら、どんな機関に相談するべきなのか考えてみましょう。

【TYPE1】飼い主の生活状況の悪化
市・区役所の福祉課、地域包括支援センター、保健所、社会福祉協議会など

【TYPE2】犬の状態の悪化
市・区役所の福祉課、生活衛生課、保健所、動物愛護センター、動物病院など

【TYPE3】周辺の生活環境の悪化
市・区役所の衛生課、環境課など

お住まいの地域によって、区・市役所の担当部署名は異なりますが、概ね上記のような機関が想定できます。一見すると相談できる窓口が多数あるように思えますが、業務内容はそれぞれ全く異なり、人の福祉と動物の福祉の両方が関係していることが分かります。そのため、多頭飼育問題による3つの悪影響を解決するためには、上記に記載した全ての機関の助けが必要となってくるのです。

また、保護活動が起因した多頭飼育問題については、早急に下記「地方自治体動物虐待等通報窓口」へ連絡しましょう。キャパシティを超えた状態で、人間に慣れていない犬たちをトレーニングしていることも多々あるため、脱走など周辺地域の安全を脅かす可能性も十分に考えられます。

▶︎ 地方自治体 動物虐待等通報窓口 一覧(WEB)

2-2 各機関連携のリアル

各機関連携のリアル

多頭飼育問題の根本的な解決には各機関の連携が重要であると考えられますが、全国的には実際にどれくらいの自治体で連携が取れているのでしょうか。環境省が各自治体に行なったアンケートでは、動物愛護管理部局と他機関の連携や協力体制についての質問もなされています。その中で、「動物愛護管理部局において、多頭飼育者の情報共有のための行政組織内の会議等を開催しているか」という質問に対して、「開催している」と回答したのは、全国の125の自治体(都道府県:47自治体、政令市:20自治体、中核市:58自治体)の内2割にも満たない、わずか24自治体のみという結果でした。ほとんどの自治体で、動物福祉関連を管轄する機関との会議等が実施されておらず、情報共有が乏しいという結果となっていますが、アンケートの実施された2019年には多頭飼育問題にも踏み込んだ法改正が行なわれています。法改正から4年が経過し、各機関の連携や協力体制の強化が改善されていることを期待しています。

多機関連携が必要なワケ

多機関連携が必要なワケ

それではなぜ各機関の連携が必要なのか具体的に見ていきましょう。

3-1 多頭飼育問題発覚のきっかけ

多頭飼育問題は、社会的に孤立している人が陥りやすく、また本人に虐待の意識が無いことから問題自体が表面化しにくいという点をお伝えしました。そのため、飼い主の関係者や近隣住民からの通報や相談がきっかけで問題が発覚する傾向にあります。

< 発覚するきっかけの一例 >
・訪問介護のヘルパーやケアマネージャー、保健師から福祉局へ相談
・近隣住民からの苦情による自治体への通報
・民生委員から地域包括センターへの相談

上記は一例に過ぎず、様々なシチュエーションをきっかけに多様な視点から発覚へと至っています。そして最初に異変に気付く関係者の立場もまた様々な職業であることが分かっています。関係機関の連携や協力体制が曖昧な場合、問題がたらい回しになってしまう恐れがあり、その間にも動物は劣悪な環境で繁殖し続け頭数は増えるばかりです。情報交換を行える体制を構築することは早期発見、早期対応につながり、多頭飼育問題の深刻化を防ぐことができます。関係機関のどこに情報が入ったとしても即座に対応するためには、各機関の連携は非常に重要なのです。

3-2 再発防止

多頭飼育の状況が一時的に解決したとしても再発のリスクが高く、解決後の協力が無い場合の再発は100%に近いという報告もされています。根本的な解決のためには動物への対処のみならず飼い主に働きかける必要があり、継続した見守りの体制が必要となります。多頭飼育問題に陥ってしまう背景や要因は個人個人それぞれ異なります。当事者の問題に応じた支援が一つとは限らず、複数の問題が絡み合っているケースも多く複雑です。再発防止の観点からも、各機関の連携や協力体制は不可欠と言えます。

3-3 環境省2022年3月ガイドライン発行

環境省では、多頭飼育問題の対策を講じるためには官民を超えた多機関連携が必要として、予防と解決に向けて取組を進めるための基本的な考え方、留意点、対応事例等を整理したガイドラインを策定しています。(※2) 社会福祉部局、動物愛護管理部局をはじめとする多様な関係部署が連携・協働するためのガイドラインを活用し、早急に多機関の連携や協力体制が整うことを期待しています。

編集後記

多頭飼育

多頭飼育問題は、ニュースやテレビの中だけの特別な話だと感じている方は多いと思います。しかし高齢化社会や核家族化が進み、家族がいても多頭飼育問題に気づかないケースが多くあります。また、保護活動者による多頭飼育問題も近年問題視されています。殺処分を回避したいという気持ちが強いが故に多数の犬猫を抱えてしまい、はじめは善意で犬を保護していたものの、次第に数が増え適正飼育を超えたことによって、様々な虐待事件が起こっています。”自分は絶対にそうはならない”と思っていても、気づかない内に”社会的に孤立”してしまう状況は誰しもに潜んでいます。自分の身に万が一の何かが起こったとき愛犬をどのように守るのかということは、飼い主として必ず想定しておくべきことです。

そして、愛犬家である私たちが大切な犬たちを不幸にしないため、また犬と暮らすことに幸せを感じている私たち自身が不幸にならないためにも、多頭飼育問題は決して他人事にしてはいけない問題です。

参考資料
※1 環境省「社会福祉施策と連携した多頭飼育対策推進事業」アンケート調査結果
※2 環境省「人、動物、地域に向き合う多頭飼育対策ガイドライン~社会福祉と動物愛護管理の多機関連携に向けて~」
環境省「アニマル・コレクター(多頭飼育者)問題」 

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