バリ島のリアルな動物保護事情と、ここから目指す未来(後編)〜インドネシア バリ島在住 加納さん〜

動物保護のカタチは、国や地域によって大きく異なります。
その理由は経済や環境、教育や宗教観など様々です。
1つ認識をしておきたいのは”日本のカタチ”が基本でも標準でもないということ。
他の価値観を知ることで日本の動物保護も日本にあったカタチで変化を期待できるのではないか?
様々な国や地域で犬の保護に向き合う方たちのインタビュー連載がはじまりました。
視野を広げることや知りイメージすることはどんなことでも大切だから。

プロフィール

第1回目は、インドネシア バリ島在住の加納さんご夫妻。
ご夫婦二人で犬猫の保護活動を行いながら、現在預かりの犬(2頭)も含めて17頭と犬たちと共にバリ島で暮らしています。
記事は、前編と後編に分けてお届けします。
今回は後編「バリ島のリアルな動物保護事情とここから目指す未来」です。

前編:加納さんが行う動物保護のカタチ
後編:バリ島のリアルな動物保護事情とこれから目指す未来

バリ島における一般的な犬の迎え方、そして風潮

 

「よく目にするのは、近所や親戚の家で仔犬が生まれそれを安易に引き取り、十分な知識を持たぬまま飼育し、少し大きくなったり皮膚病になり見た目が悪くなると捨てる、というような流れです。
基本的に仔犬の時はかわいがり大きくなると手放す又は放し飼いという風潮にあります。実際に恥ずかしげもなくそう宣言されたこともあります。
猫はともかく犬は探さなくてもそこら中に存在していますので、ローカル、外国人在住者に限らず愛犬家と呼ばれる人々は皆、路上などでレスキューした犬たちを引き取って暮らしています。」

「ブリーダーや市場、ペットショップなどで購入するという方法ももちろん多くあります。
ポメラニアン、ゴールデンレトリバー、ハスキーなどバリ犬以外の純血種犬を自身のステータス目的として購入する人も多く、身動きの取れないケージに入れられ強い日差しが照りつける中自宅前の路上に置かれていたり、短い鎖に繋がれたままの一生を強いられたりといったことも多いです。
最後はしつけやケアが十分になされず手におえなくなり捨てるいうこともよくあります。
また、今に始まったことではありませんが、最近バリ島のキンタマーニ犬がインドネシア原産の純血種として承認されたことも、購入の後押しとなっているようです。」

バリ島の犬カルチャーと保護事情

バリ島で暮らす犬たちの日常

「全体的に飼い主の知識や動物に対する意識のレベルが世界的に見てもとても低いことと、犬を不浄のものとするイスラム教の信徒数が1番多いインドネシアの国柄、また教育が追いついていないことや貧困などの理由もあり、バリ島の犬は総体的にとても過酷な環境下で暮らしています。
バリ島にもローカルや外国人による保護団体が存在しますが、助けを求めている犬の数に対し、その数は全く足りていない状況です。」

「文化として譲渡会形式での犬の譲渡もあります。週末などモール、ビーチ、公園などに特設会場を設け、保護団体により行われています。」

保護活動や施設運営に対する行政のスタンス

保護時の犬たちの様子

「行政が犬の保護を目的として動いていることを特に聞いたことがありません。
バリ島は狂犬病フリーではありません。
これがバリ島の大事な収入源である観光産業を脅かしていることもあり、政府は狂犬病対策に躍起になっています。
その対策と言うのは、各エリアを回って放し飼いにされている犬また野良犬にワクチンを打つ事なのですが、狂犬病の犬が出たと言う情報が出回ると、そのエリアの犬を毒などで一掃することもよくあります。これは事前にお知らせが届くそうで、その日時にそのエリアの野外にいる犬は、野良犬飼い犬に限らず全てが対象になります。」

バリ島での保護活動のつながりと広がり

 

「ローカル、外国人ともに個人レスキュアーや保護団体が多く存在していますが、外国人在住者として個人で活動を続けるにあたり、レスキュアー同士のつながりは欠くことができません。
有益な情報交換や、譲渡募集にあたってのシェア、緊急時の助け合いや精神面でのサポートなど、同じ目的に向かいお互いがお互いを支え合っています。
友人知人以外では日本人のレスキュアーでバリで活躍されている方を見聞きした事はありませんが、その他の国からはヨーロッパやアメリカ、オーストラリアなど多方面からのレスキュアーが活躍されており、それぞれ母国の支援者ともつながりを作りグローバルに活動されています。
私たちも、日本から応援して下さる方々からの応援金や支援物資の提供を受け、実際にバリに足を運んでいただいたり、私が投稿した情報をそれぞれのページで拡散していただくなど、協力の輪が少しずつ広がってきているように感じています。」

今までの活動を振り返り感じる課題と変化

最近保護したばかりの仔犬、アオちゃん

「私たちは、まだ活動を始めて日が浅いこともあり具体的に目に見えた大きな変化と呼べるものはまだありませんが、レスキューや避妊去勢イベントを通して関わりを持った地域の人々が自分の飼い犬の健康管理にこれまで以上に関心を持ったり、私たちのInstagramを見た人々が保護犬猫の新しい家族になったり、寄付をしたり、社会に向け保護動物関連の情報を自ら発信したり等意識を変えていく様子を見て、少しずつではありますが変化を起こせていると実感しています。
たくさんの方々が私たちに共感し活動に協力していただけるようになった今、前線で手足を動かし活動する者として、応援いただく皆様の気持ちをできるだけ形にし、続けて行くことが私たちの使命だと思っています。

バリ島の犬猫問題の全てを短い期間で変えていく事はとても難しいことですが、まずは飼い主の意識を変えていくことでこれから新たに生まれる不幸な命の数が少なくなってゆくのではないかと考えています。」

バリ島の野犬について根本的な問題

ローカルの子ども達と共にレスキュー活動を行う

「根本的な問題は貧困と教育不足から来ていると思います。
毒殺、石などを投げる暴力、鋭利な凶器を使った虐待などは日常茶飯事です。
子どもたちの前で大人が犬に石を投げたり、長い棒でつついたりすることで、子どもも同じように虐待をするいう流れの連鎖はとても悲しい事実です。
また、貧しい生活環境から犬食をする人も少なからずおり、路上の犬や家の敷地内で飼われている飼い犬でさえも、誘拐盗難され犬肉食業者へ売り飛ばされることもあります。
一説では外国人が飼う犬は栄養価の高いフードを食べていると言う憶測から、狙われやすいと言う話も聞きます。」

「飼い主の持つ知識や自覚が乏しいため、混合ワクチン接種を怠ったり、避妊去勢手術をしなかったり、怪我や病気を持ったまま放置されていたりということがとても多く、それでいて放し飼いなので病気が蔓延しやすく、バリ犬の平均寿命は3〜4年と言う話も聞いたことがあります。
小さな子どもに対しては命の大切さを教え、動物を飼う大人たちに対しては適切な飼育方法と心得、基本的な知識を教えることから全てがはじまると考えています。

「避妊去勢手術に関しては、地元の方々になぜ手術をしないのか質問すると多くの場合『かわいそうだから』などの返答が返ってきますが、単純にお金をかけたくないと言う理由もあるようで、生まれては仔犬を外に捨て、また生まれたら捨てを繰り返す傾向にあります。ビーチや田んぼに捨てられることも多いですが、ビニール袋や米袋に入れ、袋の口を縛って捨てたりということもよくあります。
我が家は大所帯を連れて毎日散歩しているため、『この家に連れてくれば犬の面倒を見てもらえる』などと勘違いした人たちや噂を聞きつけた人たちが、家の前や駐車場に傷付いた成犬や生まれたばかりの仔犬を無断で置いていくことも多々あります。
実際に対面で『犬が好きなんでしょう?この犬をどうぞ』『この犬、捨てられていてかわいそうだからもらってくれ』などと持ってこられたことも何度もあります。
飼い主一人ひとりに、避妊去勢をさせることと生まれた仔犬が捨てられることのどちらが”かわいそう”なのかをきちんと考えていただく必要があると思います。」

バリ島では、今どんな保護のカタチが犬たちにとって理想なのか

 

 

「バリ犬には古い歴史があると言われています。
遠い昔から人々の生活に寄り添い共に暮らしてきたバリ犬の生活を守ること、彼らの命を守ることは最優先でなされなければならないことだと思います。
その上で、時代にあった犬の飼い方を見直し、放置される犬の数を増やすのではなく、一頭一頭に生活を管理する飼い主の存在があることを必須とし、バリ島に存在する全ての犬それぞれが人間の管理下において適切な環境で暮らすことが理想なのではないかと思います。」

「現時点では条件を満たす飼い主を探すことは困難極まりなく、家族を求める犬の数は飽和状態にあります。
今日明日のことを考えたときに私たちが一番ベストだと思える保護の形は、動物保護に対する意識レベルが比較的安定している諸外国の、理解ある家族の元にバリの犬を送ることではないかと考えます。
例えばバリから日本に犬を移送する事は、時間もお金もたくさんの手続きも必要となる大変な作業です。それでも、譲渡後に保証されるその犬が家族から与えられるであろう愛情や適切な飼育環境を思えば、取り組む価値のあることなのではないかと思います。」

最後に、この活動を通して何を目指すのか

 

「もちろん一番の目的はひとつでも多くの命を救うこと、そして不幸な目に遭っている犬たちー頭ー頭に明るい未来を見せてあげることです。
しかし、その目的を果たすため、家庭内にいる17頭(現在)の面倒を見ながら夫婦二人で活動を継続させて行く事は簡単なことではありません。
バリ島に在住する日本人の一人として私たちにできる事は、夫婦二人で活動することだけでなく、この状況を日本に住む多くの方々に知っていただき関心を持っていただくこと、そして”遠くの国で起こっている他人事”ではなく身近な事としてこの問題に一緒に取り組んでいただけるよう、前向きな気持ちで無理なく協力の輪を広げていくことだと思います。
伝統的思考が根強いこの島の特徴を見ても、島内での活動と合わせて海外など外側からのアプローチを加えていくことでこの島の人々の動物に対する考え方が影響を受け、少しずつ良い方向へ変わってゆくのではないかと私たちは考えそこを目指しています。」


後編では、バリ島のリアルな動物保護事情ここから目指す未来についてお伺いしました。 「根本的な問題は貧困と教育不足から来ている」加納さんが発したその言葉が深く印象に残りました。 野犬問題に関心がないのではなく、そもそもその問題に対して課題意識がない。 その犬達をどうすれば良いのかわからない。 問題は異なるかもしれませんが、日本もバリ島と同じだと個人的に考えています。 いつもペットショップに生後間もない仔犬がいるのはなぜ? その仔犬達は大きくなったらどこへ行くの? そもそもその仔犬って誰が産んで、どうやってそこまで流通しているの? 知らないことをまずは知ることから。 未来を生きる子ども達の心の中には、犬をはじめとする様々な問題がもっとシンプルに届き、知識やモラルが根付くことが大切だと改めて感じました。 加納さん、ご協力をいただきありがとうございました。 遠く日本より、そのご活躍と活動、そして犬たちの笑顔を心より願います。