犬の似顔絵と対話から生まれるアートが持つ可能性

#10_MONET (TOKYO)
長友心平さん・モネちゃん

モネは、約200頭が暮らす繁殖施設崩壊現場から動物保護団体に保護された元繁殖犬。
その壮絶な過去を感じさせることもなく、持ち前の明るさで周囲を明るく照らします。
モネを家族として迎えた長友心平さんは、犬の似顔絵を始め多くのアートを描く画家でもあり、保護犬啓蒙活動の一環として保護犬たちの似顔絵を描いています。
今回は、長友さんご自身が犬の似顔絵を描くきっかけになった出来事や似顔絵、アートに込める想い。
そして、元保護犬モネとの出会いと、その後の心境の変化をご紹介します。

元保護犬 MONET(モネ)のこと

トイプードル(推定10歳 2019.12月時点)
元繁殖犬。抱っこが大好きで人懐っこいフレンドリーな性格です。
2014年、犬の似顔絵を始め、様々なアート作品を手掛ける画家、長友心平さんの家族になりました。
モネの名前の由来は、もちろん印象派を代表するフランスの画家モネから。

犬の似顔絵を描き始める出来事

長友さんと言えば、カラフルで見ているだけでハッピーな気持ちになる犬たちの絵をイメージする方が多いかと思います。私もそのひとりです。でも実は、モノクロの絵を描いたり、抽象画も描かれるとか___そして最近は、お寺で仏画を描く機会もあるとのこと。
犬、風景、人物。テレビの美術では浮世絵・・・と様々な表現で活躍されています。今日まで、どんな経緯をたどって長友さんは犬の絵を描くようになったのか。その発端となるエピソードを伺いました。

「犬の絵を描き始めたきっかけは、学生時代、井の頭公園で道ゆく人たちの似顔絵を描いていた時に、いろんな人が行き交う中、グルーミングサロンの方に声をかけていただいたのがはじまりです。『サロンのイベントで犬の似顔絵を描いてもらいたい』と言われ、その当時、犬の絵を描いたこともなかったけれど、お声かけいただいてせっかくだし、チャンスかなと思って挑戦しました。」

「複数の店舗があるグルーミングサロンだったので、各店舗を掛け持ちながら1年くらいずっと犬の似顔絵を描いていましたね。
もともと人物像で抽象画や油絵を描いていましたが、その1年の経験の中で『やっぱり自分のテーマは動物だ』と改めて気が付きました。
その後独立して、駆け出しで個展をしていた頃は、カフェやグルーミングサロンで絵を展示したり、野外イベントに呼ばれて行ったり、伊勢丹や三越など百貨店の催事もあったので動物以外にも風景画なども展示することもありましたが、主軸に動物というのは確実に1本ありました。ちょうどその頃、保護犬っていう存在がいることや、譲渡会が開催されていることを知りました。今から約15年くらい前のことです。」

似顔絵を描くということはライブコミュニケーション

「表現として、似顔絵を描くということはコミュニケーションだと思っています。人と話ながら生まれるアートが個人的に自分の中で大事だなと思っていて、それが動物に切り替わってより深くなった感じです。
目の前の“その動物と飼い主さんの関係“を見ながら約30分間いろんなお話をしながら描く時間。対面の中で、飼い主さんと一緒に1つの絵を作っていく。その工程が魅力の1つでもあります。」

「絵やアートは、そういう可能性があるのかなってずっと思っています。
美大を出た時に遡りますが、美術畑の自分たちと一般の方との距離というのを僕はいつも感じていて、社会に出てみてどうだったかというと、やはり何処と無く温度差を感じるというか、、、
だからなのか学生時代から、商店街の町おこしで絵を描いたり、社会や人と一緒にアートを通して、そこで生まれるものを大事にしてきたような感じがします。」

「あと、絵を描いてもらうとか、その絵を飾るとか、それが自分だと恥ずかしいと思う方も多いのですが、自分の犬だったらハードルは下がりますよね。
むしろ、愛する犬の絵だったら描いてもらいたいし、家にその絵を飾ると思います。その自然な流れもいいですね。
そして、その犬が亡くなった時、写真とは違うある意味リアリティとかもある。
犬の似顔絵を描いてもらおうと思って来てくれた飼い主さんも、絵を描く30分の中で、『そこに自分も一緒に描いてもらおうかな』という気持ちが芽生えて、ある意味ライブなんです。その時の空気感や雰囲気がぎゅっと形になるというか。写真もそうだと思いますが、でも僕は絵しか描けないので、絵で何か関われたら、その時間を作れたらといつも思って描いています。」

保護犬を描く時、人生の色が鮮やかに見える

保護犬活動の中で、保護犬のPRとして似顔絵を描くこともあるという長友さん。老犬や生まれたばかりの仔犬を描くときは、パステルカラーや静かなブルーなど、シンプルにそっと飾っておけるような感じの絵のイメージが湧くとのこと。保護犬を描くときに、何かいつもと違う特別な感覚や思いはありますか?

「僕は、絵を描く時、必ずその犬との出会いの場面を聞きながら描きます。出会いは本当にさまざまで、いろんなタイミングやインスピレーションなどのエピソードを伺います。
そんな中で保護犬に関して言えば、その方の無償の愛っていうのかな『この犬を守ってあげたい』とか、命を迎える責任とかをより強く受け取ることが多いです。 そういう時の絵は、僕にとってよりインスピレーションが湧き、エネルギッシュでカラフルな色を感じるような気がします。」

「保護犬の持つバックグラウンドの孤独や寂しさを感じて、よりカラフルでハッピーな絵を描くのですが、色っていうのはそもそも感情に合わせていろんな色があって、明るい色もあれば暗い色もある。
明るい色っていうのは明るい色だけで成り立たないっていうのもあって、暗い色や影になる色があってバランスが取れて一つのアートになります。
なんていうか、そういった感情にいろんな色があるというのが保護犬自身や保護犬を迎えようと思っている人たちから受け取ることができて、より多くの色が見えてきます。」

モネとの出会いと心の変化

保護犬を迎えようと心を決めた時点から歯車がどんどん回転し、エントリーしてすぐにトライアルがスタートしたモネと長友さんの暮らし。
モネとの出会いと当時の様子を聞きました。

「お付き合いのある保護団体のWEBサイトを見ていたら、心が惹かれる犬がいたんです。
それが、モネです。
家族になった時は、推定5〜6歳くらいかなと言われていて、今推定10歳です。
WEBサイトに当時たくさんの犬たちが掲載されていて、そこにモネも並んでいました。その切り抜きの笑顔が、なんかこう、変な話なんですけど、モネを迎える前年に2年くらい闘病をした母が亡くなったのですが、告別式の時に選んだ母の写真の笑顔とモネの笑顔が似ていたんです。モネの写真を見てそういうようなニュアンスを僕は感じました。」

「モネとの出会いは、自分のリズムみたいなタイミングがあって、その時そのタイミングが来た。みたいな感覚です。
それまでも『僕も犬と暮らしたいな』と思う瞬間は多くありましたが、僕自身、当時、ひとりで絵を描いて生活をしていたことや、仕事柄あまりにもたくさんの飼い主さんの犬に対する愛情や責任感を見てきたこともあって、みなさんと同じような想いを持って自分も犬を迎えることができるのかというプレッシャーみたいなものが正直ありました。」

「その時に、レスキューに関わるとある人に相談したら『保護犬で選んだ犬に対しては、ペットショップやブリーダーと違って、そこに関わる獣医師とか、レスキューの人やグルーマー、預かり里親さんや僕らみたいな人間とか、ものすごいたくさんの人たちが支えてそこに居るわけだから、ひとりで悩まなくても、こういう人たちがたくさん常にいるし、悩んだ時は、トレーニングの人とかもいるから全然心配しなくていいんだよ』って言ってくれて、大丈夫かなってそう思えました。その気持ちになって、心を決めて出会いを探して、モネと巡り会いました。」

永遠にそこに続く時間

生まれた時から鹿児島の実家では、外飼いの大きな犬と暮らしてきたという長友さん。でも、その暮らし方は番犬としてということもあり、犬との暮らしではあるものの、その日常はモネと大きく異なるものがあったそうです。自分のパートナーとして初めて迎えたモネとの暮らしの中で、自分の中にどんな変化が起きたのか、伺いました。

「モネを迎えるまで、何千枚も犬の絵を描いてきましたが、やっと、家に帰って抱っこしたり、一緒に寝る日常を体験をして初めて全部オセロが変わるっていう感覚がありましたね。 対面の立場からじゃなくて、同じ立場から絵を描けるようになった実感があって感動がありました。
似顔絵を描く時にお話をする中で、飼い主さんが犬との日常の中で言葉にできていない部分を自分でも日常的に感じた上で表現できるということは大きいなって思いました。
空気と時間と。なんとなくだけど、その感じですね。
実際の絵は大きく変わったようには見えないかもしれないけど、自分の中では大きくチャンネルが変わった感覚はありました。」

「僕の周りにも実際に動物と一緒に暮らしていない人はたくさんいるし、犬や猫との暮らしから離れていて全く関わりのない人もいて、『動物はいいよ〜』って勧めることもありますが、色々と暮らさない理由はあるじゃないですか?
でも、色々と理由はあっても暮らしてみたらその理由は全部変わってしまうくらいのことだし、動物から学ぶ純粋な気持ちって言うかな。
たとえそれがどんな形であれ、亡くなった後もそこにまた続いていく時間って言うのが確実にあるから、やっぱり、僕は今それを実感していて、 犬を天国へ見送った後にペットロスで絵を描いて欲しいと言う方の絵を書かせていただくこともあるけれど、その時その気持ちもよく伝わります。
そして、やがていつか来る自分の時にもその方たちの想いが助けや支えになる時が来るんだろうなって思ったりしています。」


私は長友さんからお話を伺い、モネちゃんの名前の由来でもあることから、印象派を代表するフランスの画家モネが描いた「印象・日の出」をふと思い出しました。
まだ暗いその風景に確実に昇る眩しくも力強い太陽。
その太陽が海面に落とす明るい光と煌めきと、その明かりを待ち動く人たち。
静と動。影と光。
その全てが1つのキャンバスに描かれることで生命力を感じる1枚の絵。
まるでモネちゃんの人生を見ているようで、その光の暖かさを感じました。
そしてきっと、長友さんのお母様もそのような方だったのではと想います。
これからも、いろんな色の日常がその人生に重なり豊かな明かりを灯すことができますように。長友さん、モネちゃん、ご協力をいただき誠にありがとうございました。

長友 心平(画家)
カラフルな動物の絵や人物などを描く。各地で似顔絵イベントや絵画教室を開催中。 代表作:天国のクジラ、東北ともしびプロジェクト、世界遺産・毛越寺「阿弥陀如来来迎図」 メディア:NHK「西郷どん」「半分、青い」等。
〈長友心平オフィシャルサイト〉 http://nagatomo-shinpei.jimdo.com