困窮する飼い主と犬の現状を知る!地域住民が多頭飼育問題を学ぶ「こうがわんにゃんボランティア養成講座」とは?

           滋賀県甲賀市『こうが人福祉・動物福祉協働会議』

適正数を超えた過剰な多頭飼育は全国的にも問題視され、2019年に改正された動物愛護管理法では、適正な環境下での飼養や繁殖制限の義務化など、飼い主が遵守すべき責務が明確化され規制も強化されました。そうした現状の中、滋賀県甲賀市では多頭飼育問題に対して全ての関係機関が連携した取り組みとして『こうが人福祉・動物福祉協働会議』を開催し、環境省が策定するガイドラインの中でも有効な取り組み事例として挙げられています。今回は、『こうがわんにゃんボランティア養成講座』を実行する甲賀市社会福祉協議会の岩本さんにお話をお伺いします

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多機関での連携体制を目指す!『こうが人福祉・動物福祉協働会議』とは

enkara:『こうが人福祉・動物福祉協働会議』はどのような背景から発足されたのですか?

甲賀市社会福祉協議会 岩本さん(以下、岩本さん):「2018年1月頃に甲賀市で多頭飼育事案を把握したことがきっかけとなり、滋賀県動物愛護推進員を中心に2018年4月より関係機関で課題の共有と対策の検討のための勉強会として活動が始まりました。」

enkara:どのような機関で構成されていますか?

岩本さん:「甲賀市生活環境課、甲賀市地域共生社会推進課、甲賀市障がい福祉課、甲賀市内の地域包括支援センター、並びに滋賀県動物保護管理センター、滋賀県動物愛護推進員及び動物愛護ボランティア団体、甲賀市社会福祉協議会等が参画しています。」

enkara:主にどのような活動をされていますか?

岩本さん:「多機関連携で、多頭飼育問題をはじめとする”人と動物の両方の問題”について情報共有を定期的に行い、普及啓発等の活動を行なっています。」

多機関での連携となると、各々の思い入れの強さから衝突したり調整が難しくなるなどの懸念がありますが、『こうが人福祉・動物福祉協働会議』では、多頭飼育問題を地域の問題の一つとしてとらえ、人と動物の両方にアプローチすることが重要という共通認識とのもと、『他者を責めない』ことを明確に共有しています。その上で『それぞれの得意分野を持ち寄る』ということを活動方針として掲げています。専門知識や得意分野を、独りよがりではなく必要に応じて発揮することができる仕組みは、まさに理想的な連携の体制ではないでしょうか。

ペットに関わる現状の問題や課題

社会的孤立

enkara:今までに、どのような相談がありましたか?

岩本さん:「高齢化や障がいのためペットを適切に世話できず、室内が汚染される相談や、適切な飼育ができず多頭飼育となり生活が厳しいといった相談。また、本人はペットの認識はないが、野良猫が住みついてしまい、近隣住民が困っている相談や高齢化で大型犬を予防接種会場まで連れていけないといった相談もありました。」

enkara:現在、把握している問題や課題などはありますか?

岩本さん:「社会的な孤立がある人は、ペットのお世話ができなくなった時に人へ頼ることができなかったり、課題が大きくなるまで早期の相談ができないといった点を問題視しています。」

甲賀市も例外ではなく、”社会的な孤立”が問題であることが分かりました。早期発見、早期対応の観点からも、人に頼ること・相談できる相手がいることは、多頭飼育問題において重要なポイントです。

『こうがわんにゃんボランティア養成講座』について

『こうがわんにゃんボランティア養成講座』について

enkara:『こうがわんにゃんボランティア養成講座』開講の背景を教えてください。

岩本さん:「『こうが人福祉・動物福祉協働会議』で検討を重ねる中で、多頭飼育問題の背景に飼い主の高齢化や障がい、生活困窮、社会的孤立など、動物の福祉のみならず人の福祉の問題でもあることと、動物たちが殺処分されないように懸命に保護している個人や団体に大きな負担を強いている現実から、地域の力を借りて犬や猫を適切に飼育できないかと企画に至りました。」

enkara:本講座の目的や期待していることは?

岩本さん:「地域住民へ地域課題の現状と適切な動物飼育の啓発をするとともに、地域に『こうがわんにゃんボランティア』を養成し、ペットの飼育に絡んだ問題を早期発見・対処できる支え合いの仕組みづくりと、飼育動物・飼い主のウェルビーイングの向上に資することを目的としています。」

enkara:こうがわんにゃんボランティア』として想定している活動内容を教えてください。

<活動内容>
・犬の散歩 
・(依頼者の高齢化や認知症等に伴う)エサやり、見守り
・(依頼者の入院やショートステイの利用に伴う)一時預かり
・譲り受け
・譲渡会等イベントへの協力 
・啓発活動
・地域猫活動のお手伝い 
・譲渡先探しのお手伝い

enkara:今後の目標や目指していることを教えてください。

岩本さん:「養成講座を定期開催していき、ボランティア登録者が増えていくことで、多頭飼育問題への理解を広げ、福祉関係者との連携も図りながら、動物と人とがともに幸せに暮らすことができる地域共生社会を目指していきたいです。」

ー ”社会的な孤立”を防ぐためには特定の機関や職員だけでなく、地域の協力も大きいと考えられます。多頭飼育問題における背景や課題を地域の住民の方とも共有することは、身近な地域の問題として捉えることができるようになるのではないでしょうか。また、関係機関による専門的な知識を学ぶ機会は、多様なコミュニティで活用されることが期待でき、非常に有効だと考えられます。

養成講座当日の様子

養成講座当日の様子

enkara:どのような方々が参加されましたか?

岩本さん:「第1回養成講座当日はあいにくの天候となり参加された方は少数でしたが、第2回養成講座には27人が参加されました。20歳から75歳という幅広い年代の方々にご参加いただき、半数を超える方々から当日中にボランティア登録いただきました。後日の登録受付も行なっているため、更に登録者希望者は増える見込みです。」

enkara:養成講座の内容を教えてください。

岩本さん:「第1回養成講座では、第1テーマとして滋賀県動物保護管理センター担当者を講師に『地域課題の現状について』、第2テーマとしてNPO法人動物愛護団体代表を講師に『事例紹介』、そして第3テーマとして滋賀県動物愛護推進員とNPO法人動物愛護団体代表、甲賀市地域共生社会推進課の担当者による対談が行なわれ、講座の最後には甲賀市水口地域包括支援センター進行によるグループワークが行なわれました。」

enkara:グループワークではどのような意見がありましたか?

岩本さん:「活発な意見交換となり、下記のような意見がありました。」

・多頭飼育は人間の問題であるということ、飼い主とペット両方に助けが必要

・多頭飼育の問題がある方々が身近にもいることを知った

・「動物の問題は人の問題」というのが印象的!本当にそのとおりだと思いました

・誰でも飼育崩壊してしまうかもしれない現実を改める勉強になった

enkara:第2回養成講座の様子はいかがでしたか?

岩本さん:「第1テーマとして『ボランティア活動する上で大切な、犬・猫そして人との関わり』についての基本編として滋賀県動物保護管理センター担当者を講師に”いぬ・ねこの飼い方について”を、また応用編として滋賀県動物愛護推進員とNPO法人動物愛護団体代表を講師に”飼育崩壊になるペットや飼い主との関わりについて”を学びました。第2テーマとして甲賀市水口地域包括支援センター担当者を講師に、『飼い主への見守りの大切さについて』についてケアマネジャーのアンケート調査を基に学び、併せてグループワークも行われました。」

enkara:第2回養成講座のグループワークではどのような意見がありましたか?

岩本さん:「第1回と同様活発な意見交換の場となりました。一部ではありますが、下記のような意見がありました。」

・この協働会議がどの地域にもある組織になること

・人と人とのつながり、近所の方とのあいさつ、声かけの大切さ

・犬を飼っている事を近所に知ってもらう、犬の名前を覚えてもらう

・一人暮らしの人が最後までペットを飼える仕組みをつくること

・災害時のお世話について

・今まで動物のみ、人のみで考えてこられた制度が、これからは同時に考えていくシステムを作っていくことが必要なんだと感じた

ー 養成講座の開講やグループワークを行なうことで、飼い主にとって最も身近な社会的コミュニティの中での問題点や困りごとを、各関係機関が吸い上げられる仕組みとなっている点が素晴らしいと感じました。多機関で構成されている『こうが人福祉・動物福祉協働会議』が主催となっているため、特定の機関だけでなく多様な連携機関の視点から話を聞けることで、多頭飼育問題の全体像を掴みやすいのではないでしょうか。

編集後記

今回は全国的にも数少ない、多様な機関との連携がなされている滋賀県甲賀市の取組をご紹介しました。多機関で構成されているため、多頭飼育問題だけに留まらず、高齢者とペットの問題や飼育困難になった場合にも対応することが可能となります。現代社会におけるペットを取り巻く環境や問題においても、最も求められる組織体系と言えます。

『こうがわんにゃんボランティア養成講座』は、ボランティア登録が必須ではありません。知りたい、学びたいという方々は参加することができ、多頭飼育問題を様々な角度から知ることができます。まだ開講したばかりの養成講座ですが、参加されている方々の意識の高さに驚きと感銘を受けました。形式的な会議や講座ではなく、それぞれの機関が一丸となって問題に取り組む姿勢が、こうした住民の方々の意識や関心の高さに繋がっているように感じました。グループワークでの意見のように、甲賀市の取り組みが「どこにでもある組織になること」それが今最も望まれることではないでしょうか。全国に先駆けて、モデルケースとして周知され、多くの自治体へ広がっていくことを願っています。

参考資料
環境省『社会福祉施策と連携した多頭飼育対策推進事業アンケート調査結果
・環境省『人、動物、地域に向き合う多頭飼育対策ガイドライン~社会福祉と動物愛護管理の多機関連携に向けて~』
・甲賀市社会福祉協議会『こうがわんにゃんボランティア養成講座を開催します!
・滋賀県『多頭飼育問題への対応

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