2023年春、新たに ”愛玩動物看護師”が誕生しました。”人”の医療の場に、国家資格を有する医師と看護師がいるように、”動物”医療の場においても獣医師の他に、愛玩動物看護師が存在することになります。新たにはじまる”愛玩動物看護師”とはどんな役目を担う存在で、2023年4月から何が変わるのでしょうか。犬たちだけでなく私たち飼い主にとっても関わりの深い、愛玩動物看護師についてアップデートしていきましょう!
愛玩動物看護師はなぜ生まれたのか?
近年ペットを家族の一員として捉える飼い主が増え、ペット医療に関するサービスも日々増えています。年々動物病院の数も増え、私たちも愛犬の体調に何か不安があれば当然のように動物病院へ行くことができるようになりました。医療施設の増加に加え、より専門的な医療を求める飼い主も増えていることから、獣医師を補助しサポートする”看護師”の存在が重要となってきました。
重要とされている看護師ですが、”人”の看護師とは異なり、”動物”の看護師は国家資格を有しませんでした。それどころか、そもそも資格がなくても動物病院で看護師として働くことが可能だったのです。
動物看護等を学び取得できる資格は全て民間資格であるため名称も様々で、大学や専門学校で数年学び取得できるものから、通信教育など短期間で取得できるものまで多岐に渡っています。そのため、一般的に”動物看護師”と名乗っていても、取得した資格によって知識やスキルが大きく異なる状況だったのです。
こうした中、今後ますます重要性が増していくことが想定される動物看護師の資質向上・業務の適正を図ることを目的として、2022年5月愛玩動物看護師の国家資格を定める「愛玩動物看護師法」が施行され(※1)、2023年2月19日、第1回愛玩動物看護師国家試験が実施されました。今年3月の合格発表後、愛玩動物看護師名簿への登録を経て、いよいよ4月以降”愛玩動物看護師”が誕生することになります。
愛玩動物看護師になるには?どんな役割なの?
今までとの大きな違いとして、”愛玩動物看護師”は国家資格となります。愛玩動物看護師を養成する大学や指定を受けた養成所で学ぶことによって、愛玩動物看護師国家試験の受験資格を得ることができます。(※2 施行から5年間に限り、既卒者・在学者、現任者は、一定の条件を満たすことで受験資格を得ることができます)
例えば私たちが点滴をする際、注射や輸液剤の中身について特に心配することなく看護師に託し身を委ねています。それはきっと看護師という職業に対して、国家試験という少なくとも国が決めた一定の基準をクリアしている人しか就くことができない、という信頼が大きいのではないかと思います。今後は犬たちや飼い主にとっても、同じように安心できる存在になるのではないでしょうか。
愛玩動物看護師の業務は、獣医師の指示の下に行う診療の補助、動物の世話や看護、栄養管理や飼育指導動物など、適正な飼養に係る助言等をすることになります。
診療の補助とは、診療の一環として行われる衛生上の危害を生じるおそれが少ないと認められる行為であって、獣医師の指示の下に行われるものであると愛玩動物看護師法第2条第2項に規定されています。例えば輸液剤の注射、採血、マイクロチップの装着、カテーテル留置、投薬等が含まれます。一方で、診断、エックス線撮影等における放射線の照射、ワクチン等、動物の身体への影響が大きい医薬品の投与等については、引き続き獣医師が実施することとされています。
専門的な知識や高い技術力を持った愛玩動物看護師が加わり、臨床現場におけるチーム獣医療体制が充実し、より質の高い獣医療の提供が可能になるだけでなく、飼い主や動物により近い存在である愛玩動物看護師は、高齢動物のケア、動物の栄養管理等に関する専門的な助言・指導の担い手 にもなります。さらに、人と動物の関わり方として注目される動物介在教育や動物介在活動(医療施設などでのセラピー活動等)のサポートなど、幅広い活躍が期待されます。
グレーな行為を愛玩動物看護師法で禁止!
今まで、診察室の中で獣医師が診察や処置をする間、看護師がサポートする姿をよく目にすることがあったと思います。今後は民間資格の動物看護師の資格では、こうしたサポートなどは一切することが出来なくなります。
業務のうち「診療の補助」は獣医師を除いて、愛玩動物看護師の資格を有する者のみが行うことのできる独占業務と規定されています。つまり、「診療の補助」は愛玩動物看護師のみ行なうことが許され、資格のない人が行なうことは出来ない、と法律で定められたということになります。獣医師の資格のない者が行なう医療行為については今までも禁じられていましたが、「診療の補助」については規定されていませんでした。適用される法律がないためグレーとされていた行為が、「愛玩動物看護師法」で完全に禁止されたことになります。
しかし今までも、獣医師の資格を持たない者が行なう医療行為は禁じられていたにもかかわらず、合法か違法かの判断が分かれ「極めてグレー」とされる行為も散見していました。愛玩動物看護師のみが許される「診療の補助」についても、その基準や判断が分かれることが考えられ、残念ながら法の網を掻いくぐる危険なサービスが今後も乱立していく恐れがあります。大切な犬たちを晒すサービスから守るためには、「診療の補助」は”愛玩動物看護師だけが行なうことのできる独占業務である”という法の規定を、私たち飼い主はしっかりと認識しておくことが重要です。
こんなサービスにご注意を!
1、デンタルケア
愛玩動物看護師の資格を持っていても、獣医師不在の中で行なう無麻酔スケーリングは違法です。民間資格保持者による無麻酔スケーリングも横行しており、合法か違法か賛否が分かれているという状況ではありますが、人間の医療として考えたとき、医師が行なう施術よりも高額の診療費用を払ってまで、敢えて「グレー」である施術を受けたいと思う人はいないはずです。そもそも無麻酔スケーリングを行なったことで、本来獣医師がすべき医療措置が遅れ問題が根深くなる恐れもあり、非常に危険な行為です。
2、ワクチンの集団接種
愛玩動物看護師がワクチンを接種することは出来ません。ホームセンターやペットショップなどで集団ワクチン接種を行なっているケースがありますが、獣医師の指示であっても愛玩動物看護師によるワクチン接種は禁止されていますのでご注意下さい!
3、紛らわしい名称
”愛玩動物看護師”に似た名称や、看護師を連想させるような紛らわしい名称の使用禁止が規定されました。それにもかかわらず今後も紛らわしい名称を使用している資格やサービス、施設などがあれば、その時点で問題なので関わらないようにしましょう。
まとめ
近年ドッグフレンドリーという言葉が定着し、多くのペット関連商品やサービスが増えてきました。一見すると飼い主にとっては有難いことのように感じますが、何をもって本当のドッグフレンドリーなのか見極め判断するスキルが飼い主には必要となりました。そうした場面において、飼い主自身が正しい知識を持った上でその商品やサービスに向き合うことが重要です。
今回新たに”愛玩動物看護師”が誕生することによって、「”愛玩動物看護師”による〇〇」や「”愛玩動物看護師”監修の〇〇」など、様々な商品やサービスの登場が考えられます。”愛玩動物看護師”についても、正しい知識や目的、本質を理解することが、名称に踊らされることなく正しい判断をすることに繋がるのではないでしょうか。根拠なく安心・安全を謳う商用的なサービスや商品が乱立している中、専門的な知識とスキルを持つ愛玩動物看護師の誕生は心強く、そうでないものが淘汰されていくことを願っています。
今後、”愛玩動物看護師”は医療施設だけではなく、様々な場所や場面での活躍が期待されています。”人にとっての看護師が身近で心強い存在であるように、動物たちにとっても同様に、安心できる存在になってくれることでしょう。そして、”愛玩動物看護師”が将来多くの子どもたちが憧れる素敵な職業のひとつとしても、社会的に確立されていくことを願っています。
▶︎第1回 愛玩動物看護師 国家試験 合格発表結果
動物看護師統一認定機構(※3)によると、受験者数は20,798名に対し、18,481名が合格(合格率は88.9%)。合格者は免許登録手続きを経て、2023年4月から動物病院などで勤務開始。愛玩動物看護師 登録者数15,754名(2023年6月1日現在)。
〈参考資料〉
※1 環境省:「愛玩動物看護師法」について
※2 農林水産省:受験資格について
農林水産省:飼育動物診療施設の開設届出状況(診療施設数)
※3 一般財団法人 動物看護師統一認定機構
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