犬と家族になること 〜家族と出会った元野犬たち〜 #7 亀井さん&ココ&ナッツ&そうた

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現在日本には多くの野犬たちがいます。動物愛護センターや保健所では、野犬を捕獲し今まであまりにも多くの処分を行ってきました。ただ近年、動物愛護や福祉の観点から、大切な命を家族へ繋げていくために社会化を行い譲渡を促進する動きが高まっています。「保護野犬を家族へ迎えたい」と考えている方をはじめ、「これから犬と暮らしてみたい」という方や多頭飼育を検討中の方へ___多くの日本人に届けたい保護された元野犬と暮らすご家族のインタビュー。野犬の個性や存在を知っていただくために連載でご紹介します。写真を通じ月日の中で移り変わる犬たちの表情の変化と共に、心の変化を感じていただけたらと思います。野犬こそ日本で緊急に保護譲渡が必要な保護犬です。全ての野犬たちが家族と出会い、心地よい環境のもと、生涯あたたかく過ごす未来へ繋がることを願います。第7回は、福島原発事故後に設置されたシェルターで出会ったココとナッツ、そして千葉県動物愛護センターから迎えたそうたとご家族のお話です。

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ココ&ナッツ&そうたとの出会いについて

亀井さん:「東日本大震災が起こった時、福島原発事故後、福島県内の警戒地域内に取り残された犬猫のために環境省、福島県、獣医師会によって設置された第二シェルター(通称三春シェルター)のボランティアに通うようになり、2014年夏そのシェルターでココとナッツに出会いました。

シェルターにいる犬はほとんどが”原発事故前は飼い犬”で、飼い主のお迎えを待っている犬もいましたが、多くの犬は飼い主不明だったり、再び一緒に生活することを諦めた飼い主が所有権放棄して新たな飼い主への譲渡を待つ犬たちでした。私が通い始めた頃は既に収容頭数のピークは過ぎて、『立ち上げ直後は戦場のようだった』という第一シェルターは閉鎖されおり、三春シェルターも全頭譲渡と閉鎖の方針に従って施設規模の縮小が始まっていた頃でした。

ココとナッツは2013年冬、トラバサミにかかり前足に重傷を負っているところを保護されました。保護当時、推定年齢1歳前後でしたので、震災で取り残された犬たちから生まれた所謂『震災2世犬』で、時々警戒地域へ置きエサに入るボランティア以外は人の存在そのものを知らずに生き延びてきたと思われる野犬です。

当時、避難で人の気配がなくなった家をイノシシなどから守るために、敷地内にトラバサミが仕掛けられることもあり、それにかかった姉妹犬と思われる3頭が捕獲され、シェルターに移動後治療されました。3頭の毛色からココ、ナッツ、ミルクと名付けられ、ココとナッツは右前足、ミルクは左前足がちぎれ、さらにココは左前足も開放骨折してブラブラしていた状態で切断もあり得た状態だったそうですが、シェルターの獣医師とスタッフさんの手厚いケアによって、左前足は少し変形はあるものの切断は免れました。私がシェルターに通うようになった時、ミルクは既に譲渡されており、ココとナッツが残されていました。

三春シェルターの収容頭数が少なくなったとはいえ、犬猫合わせれば100頭以上いて1頭1頭のお散歩に十分な時間をかけられる程の余裕はなく、コンクリートの敷地内を2〜3周し、室内の掃除をする間だけ交代でパドックに繋がれるのが日課でした。その中で、ココとナッツはリードを付けてお散歩ができるようになってはいましたが、引きが強く、残った前足への負担軽減のために、敷地内1周だけお散歩した後は2頭専用のパドックで放してもらうのが日課で、私は直接ココとナッツに関わった事はありませんでした。

ボランティアとして何度か通う間に、シェルターの犬を家族として迎えたい思いが大きくなり、元気でエネルギーを持て余している若犬、老犬、関わりが難しい犬など、どの犬を家族として迎えるのが最も良いのか考えるようになりました。その視点で改めて保護されている犬たちを見た時、3本脚のココとナッツにとってパドックの床はとても滑りやすく、足への負担も大きい事から、『我が家の庭はココナッツにとって過ごしやすいのではないか』と考え、2頭を家族へ迎える決心をしました。

余談ですが、その頃の私はココとナッツが3本脚のため寝返りなど日常動作にも不自由だろうと思っていました。のちに2頭が義足装着を断固拒否し、3本脚で長距離の散歩だけではなく、野山を自由に走りまわれる身体能力を持っているとは想像していませんでした。笑」

なぜ?犬と暮らしたいと考えたときに野犬を選択したのか

亀井さん:「野犬を選択したのではなく、迎えたココとナッツが野犬だったのです。シェルターで保護されていたほとんどの犬が元飼い犬だったのに対して、ココとナッツは『シェルターに保護されるまで全く人がいない避難地域で生まれ育った野犬』でしたが、私がボランティアで通っている時にその違いを意識する事はなかったです。

正直なところ当時の私は、子どもの頃から常に犬と暮らしていたにも拘わらず『野良犬』と『野犬』の区別もつかないくらい知識がありませんでした。」

多頭飼育を決めた理由、多頭飼育の良い点、大変な点。

亀井さん:「シェルターで互いに寄り添う2頭の様子を見て、引き離してどちらか1頭だけを迎える事は全く考えなかったですし、それ以前の先代犬たちも多い時は4頭飼いでしたので、一緒に2頭を迎えることに迷いはありませんでした。ただ家族へ迎えてから、ココとナッツの人に媚びない『野犬の誇り高さ』と『絆の強さ』に、数ヶ月間は2頭の世界に私は入れてもらえず、最初から人に甘える元飼い犬や野良犬の仔犬たちのような『保護犬』とは全く違う『元野犬』である事を思い知り、2頭との距離を縮める試行錯誤の期間が続きました。時間をかけてゆっくり慣れていけば良いという思いもありましたが、譲渡時の条件に『譲渡後3ヶ月以内に不妊手術をし報告する事』という約束があったため、3ヶ月以内の病院受診する事を目標にし、そのために必要な『クレートレスト』、『リード装着』、『保定』、『車の乗車』など課題をひとつひとつクリアしていく事で、自然と少しずつ2頭との物理的、心理的距離が縮められたと思います。」

今だからわかる事ですが、ココとナッツが9ヶ月間シェルターで過ごしスタッフさんとの関わりがなければ、たった3ヶ月で私を受け入れてくれる事は難しかったと思います。

ココとナッツを迎えた後、保護犬の一時預かりをするようになってからの事ですが、『野犬の兄弟姉妹犬を一緒に預かると人馴れが進まず、また兄弟姉妹を一緒に譲渡できるとは限らないのだから、1頭づつしっかり向き合った方が良い』と助言された事もありました。実際それが当てはまるケースも多いと思いますが、理性派のココと感情派のナッツは、いつも寄り添い互いに補完しながら、新たな環境への戸惑いや心細い思いを乗り越えてきたように見え、結果的に私は2頭一緒に迎えて良かったと感じています。

もう1頭の家族『そうた』は2022年8月に迎えました。そうたは、推定1歳の時に千葉県動物愛護センターに収容され、他に引き出し優先度が高い犬たちの陰で、その後1年半引き出されないままセンターでひっそりと気配を消すようにして過ごしていた犬で、ようやく他に優先する犬が居ないタイミングで引き出し預かった犬です。

収容当時は推定1歳でしたが、肉球は仔犬のようにピンク色でとても柔らかくて被毛の汚れもなく、外を歩いた事がないような外見でしたが、人をとても怖がりました。人の気配がする日中はケージの中でひたすら気配を消し、排泄も食事もしない様子はまるで野犬のようで、センターに収容されるまでの生後1年間、どのような環境にいたのか全く想像ができませんでした。

我が家で預かった後も、そうたは人をとても怖がりましたが、犬との関わりはとても上手な子で、ココとナッツや他の預かり犬たちに倣うようにして『家庭犬』として成長しました。

そうたは、預かり期間が2年半以上経過しても家族以外の人や子どもをとても怖がり、譲渡後、新たな環境下でスタートする事が難しいと判断し、また何よりも私やココとナッツにとって、そうたがかけがえのない存在になっていた事から、家族として迎えました。」

今までを振り返ってどんなことを感じますか?

亀井さん:「ココとナッツを家族に迎えてから、保護動物についてより考えるようになり、その後地元の保護団体ボランティアとして愛護センター訪問や犬の預かりをするようになって、そうたと出会い、今の私があります。

犬との生活を通して知り合ったボランティア仲間だけではなく、譲渡先のご家族や、近所の犬友さんなど、犬を介して広がった人との繋がりは私にとってかけがえのないものとなりました。

ただ、犬と暮らす事で毎日の生活に不自由な事が増えるのも事実で、私の場合は仕事を含めて海外渡航、登山や島旅は諦めましたし、雷や花火が苦手なココとナッツの夏のお留守番は気が気ではないですし、朝の散歩で始まり、夜の散歩で終わる毎日がしんどい日もありますが、それでも犬たちと日常を繰り返せる事は、やはり何事にも代え難い幸せな事だと感じています。」

保護野犬を家族へ迎えたいと考える方へのメッセージ

亀井さん:「私は野犬の譲渡に関わる立場でもありますので、その立場からお話したいと思います。最近は各メディアの影響で、多くの人に『保護犬』について知ってもらえるようになりました。ただ、保護犬を迎える際にはテレビやインターネットの情報だけで判断せずに、実際に譲渡会やシェルター、預かりボランティア宅で希望する犬やお世話している人に直に会って、その団体やボランティアと納得するまでお話しし、信頼できる愛護団体やボランティアか見極めていただきたいと思います。

また譲渡面談は、譲渡を希望される方と保護主が対等な立場で、双方の信頼に足るか見極める場です。犬に対する姿勢や預かり環境をしっかり見て、保護犬の出所や譲渡費用について明快な説明があり、納得できる団体から迎えていただきたいと思います。

またSNS等で各地の愛護センターに収容された野犬の『命の期限』『この子を救ってください』という投稿には動揺しますし、『可哀想な犬を一頭でも救いたい』という気持ちはとても尊いと思います。けれども、愛護センターなどから馴化や社会化されていない野犬を直接受け入れても、犬に家族と認めてもらえるまでには相当な時間も努力も必要ですし、全く歩み寄れないまま閉ざされた部屋で何年も過ごさせたり、譲渡直後に逃がしてしまうなど、再び辛い思いをさせてしまう例も少なくありません。どうか一時の感情に流される事なく、その犬の一生を責任持って引き受けられるのかご自身のライフステージや環境、経験などと合わせて冷静に検討していただきたいと思います。

もし、犬と暮らした経験がなく初めて犬を家族に迎えてたいとお考えならば、捕獲直後の人との生活を全く知らない野犬ではなく、預かりボランティア宅などで家庭での生活を経験を積みながら新しい家族を待っている『元野犬』を選ぶことをお勧めします。

誠意あるボランティアは譲渡して終わりではなく、元預かり犬や新しいご家族が譲渡後、何か壁にぶつかった時には一緒に悩み、考える犬仲間でありたいと思っています。そして、ボランティア宅から『元野犬』が譲渡されれば、そこに新たな野犬を迎え入れる事ができ、結果的に家族に迎えた元野犬プラス新たな野犬の2頭を救う事にも繋がっていきます。

実際に犬を家族に迎えたら、犬が家庭に馴染む事だけを期待せずに、自分や家族のための時間や空間を調整し、人と犬が互いに歩み寄り折り合いをつけて心地よい家族の関係を築いていただければと思います。」

亀井さんにとって”犬と家族になること”とは

私の家族としての最大の務めは、最期までココはココらしく、ナッツはナッツらしく、そうたはそうたらしく、穏やかに旅立てるよう看取る事であり、万が一、自分でそれができないような状況になった時にも、3頭が安心して暮らせる備えをしておく事です

編集部です。今回のお話の中で、亀井さんから【野犬と人間の関わりの中で様々な場面でキーとなるお話】をお伺いさせていただくことができたように感じました。1つ例に挙げさせていただくと、野犬は私たち人間が野犬と呼びカテゴライズしているだけで、彼らは自分が置かれている立場を、私たちと同じ目線で理解しているわけではありません。彼らは野生に生きる生きものであり、野生に生きる犬です。犬ではあるが飼い犬ではない。彼らのあたりまえと私たちが考える犬のあたりまえは相違があって当然で、個を尊重することが極めて重要だと改めて感じました。「野犬は野生で生きたほうが幸せだ」と論じる人もいます。ただ、私はどうしてもそうは思えないのです。答えは、亀井さんと暮らしているココ、ナッツ、そうたさんの表情の変化にあります。収容時と比較すると現在の3頭は、とても満たされた穏やかな表情をしています。常に緊張し、いつ外敵から襲われても対応できるようなマインドは狼には自然と備わっているものの、犬にはストレスでしかありません。彼らが犬である以上、穏やかに人間と暮らすことは幸せであると、やはりそう感じます。亀井さん、貴重なお話をありがとうございました。

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