野犬と聞いて皆さんはどんなイメージを持ちますか?危険、凶暴、怖い、人馴れしない、臆病など残念ながらネガティブなものが多いかと思います。実際に今まで様々な事故や事件も起こっており、狂犬病の問題などその気持ちは根深いものです。都心部に住んでいると<野犬や野良犬は過去のもの>と認識している日本人も少なくないと思います。一方、犬と暮らす人たちの中では<動物愛護センターや保健所で殺処分されている犬のほとんどは実は野良犬と野犬である>という情報も一般化してきたように感じます。「保護犬に何かサポートをしたい」「保護した野犬を家族として迎えたい!」そう思い、実際に野犬に対して積極的に行動する方も増えてきました。今だからこそ、改めて野犬のことをもう一歩理解を深めアップデートしましょう!
野犬とは?なぜ増えるの?
野犬とは、自然繁殖で生まれる犬たちのことです。
迷子、放棄、放し飼いなどで飼い主を失った野良犬が野生化し、生んだ子どもたちを「野犬」と呼びます。
日本の法律でこういった犬をカテゴリに分けると、野良犬・野犬・野犬(のいぬ)がありますが、その分け方は住む場所や野生生物を捕食しているかどうかの違いです。そして、この違いによって適用される法律が異なり野犬(のいぬ)は鳥獣保護法により今も銃殺捕獲する地域があります。
・野犬:街で自生(半自立・野生化)している犬(野生生物は食べない)
・野犬(のいぬ):山野で自生(自立・野生化)している犬(野生生物を食べる)
また犬(メス)は、生後半年〜1歳の間に最初の発情があり以後、年1〜2回周期で定期的に発情します。犬には閉経という概念がなく、周期が不規則になっていくこともありますが生涯発情は続きます。妊娠は8歳頃まで可能ではあると言われており、1回4〜5頭の仔犬を出産します。野犬として生まれた仔犬はまた生後半年〜1歳で発情が始まり、あっという間に妊娠出産を繰り返します。犬の生物学的に避妊去勢をせずに野放しにしてしまうと、その地域は爆発的に野犬が増えていくことがお分かりいただけると思います。
犬が野生で生きるとは?
地球上にはおよそ9億頭の犬が住んでいますが、そのうち70%は特定の飼い主に属さない野良犬(野犬)と言われており、餌やりを定期的に行う人に食糧を依存する形で生きています。ただ、自然に生きる野犬たちは環境や医療、事故など様々な面から管理不足により寿命が圧倒的に短く、家庭犬の平均寿命10〜13年に対し、2〜3年という悲しい事実があります。日本の場合、1957年まで多くの犬が狂犬病と診断され、人間も狂犬病に感染し死亡していた過去があります。その流れを受け、 現在も野犬は地域を管轄する愛護センターが捕獲と管理をしています。
野犬として気ままに自由な暮らしをさせた方が良いのではないか___そういった意見もありますが、犬は人というパートナーがあってこそ穏やかに生活を営むいきものであり、共に暮らす「飼い主」と「あたたかな環境」が必要だと私たちは考えます。
また、野犬は公衆衛生上の人獣共通感染症の媒介動物であるだけでなく、人間、家畜、絶滅危惧種の野生生物に直接的な脅威をもたらします。そのことからも犬が野生で生きることは好ましいとは言えません。
野犬が多い地域は?
日本で野犬が多い地域は「四国」です。
1年を通して温暖である気候が故に野犬数が多く、全国スケールで見たときに大きな割合を占めています。例えば環境省が発表した最新数値を見ると、四国全体で年間3,003頭の推定野良犬が捕獲されており、全国15,471頭のおよそ2割は四国で捕獲されていることがわかります。
また、東京都に近い茨城県や千葉県は「全国引き取り及び処分の状況リスト」にワーストインしており、昨年度も推定合計1,500頭近い野良犬・野犬を捕獲し、2県合計142頭の殺処分を行っています。海外では圧倒的にインドが多く、200年以上に渡りCatch-Neuter-Vaccinate-Release(捕獲して避妊去勢手術、狂犬病予防接種を行いリリースする施策)を行い野犬問題に取り組んでいるものの今もなお課題は続いています。
野犬の特徴が知りたい!
野犬は、その地域や風土の影響を受け個性が豊かです。日本の場合、身体的な特徴としては基本的には10〜20kgの中型犬として成長しますが、風貌や毛並み、骨格はそれぞれ異なります。立ち耳で短毛であるケースが多く、全体的に身体能力が高い賢い犬が多い傾向にあります。
性格的には初期段階で社会化を経験していない成犬の場合、それはイコール野生化しているため人間を避ける傾向や本能的行動は年々高くなっています。その面を見ると「人に慣れない、臆病、シャイ」という印象を持つかもしれません。ただ、時間をかけて犬たちから信頼を得ることで社会化し、性格や行動に穏やかな変化が起こります。
保護された野犬と暮らしたい
野犬の成犬は、基本的に餌やりを定期的に行う人に食糧を依存する形で距離感を持って生きています。そのため半自立で野生化しており、社会化をしないと家庭で共に暮らすことは困難です。時として、逃走、脱走などの事故も起こっています。ただ、仔犬の場合は早い段階で社会化を学ぶことで大きな問題に直面することは少なく、初心者でも比較的飼いやすいと言えます。
現在もなお、北海道東部など一部の地域では家畜を襲う、野生生物を捕食するなどの理由から野犬や野良犬を「野犬(のいぬ)」と判断し狩猟駆除しているケースもあるようですが、近年動物愛護センターでは捕獲した野犬を殺処分ではなく譲渡へ繋ぐ傾向が強くなっています。
センターに専任ドッグトレーナーが常駐し社会化トレーニングを行うケースも増えており、お住まいの地域の動物愛護センターから元野犬を家族に迎える選択肢もあります。
ただ、センターは管轄する地域に在住している人のみを譲渡可能対象としていることが多いため、お住まいの地域のセンターによっては野犬の保護犬がおらず出会えないケースもあります。その場合、他府県からの譲渡希望も条件付きで可能としている愛護センターや広島県の野犬を管理トレーニングして譲渡を行っている特定非営利活動法人「ピースウィンズ・ジャパン(ピースワンコ)」が運営する全国の譲渡センターへ出向くことも良いでしょう。
《保護された野犬と出会える場所》
元野犬と暮らす人たちを紹介
enkaraでは、今まで元野犬と暮らす家族の皆さまから貴重なお話をお伺いしてきました。ここでは、実際に元野犬たちと暮らす皆さんをご紹介します。
コラム寄稿していただいている富永 祐太さんは、千葉県で推定生後2〜3ヶ月の野犬の仔犬茶々丸くんを家族に迎えました。今では超有名な登山犬として活躍中です!
・富永 祐太&茶々丸(東京都)
ドッグキッズ「犬と暮らす子どもたちのストーリー」では、元野犬と暮らすお子さまたちにインタビューさせていただきました。みんな家族として愛溢れる日常の中にいます。
まとめ
野犬が人馴れしないことや臆病に見えることは野生で生きていく上で大切なスキルだったということがお分かりいただけたかと思います。野犬は危険で凶暴な訳ではなく、あくまでもそれは命を守るために必要な行動の側面でしかありません。とても賢く、たくましく野生で生きる個性豊かな犬たちです。
「あたたかな環境下で、飼い主と信頼関係のもと満たされて生涯を生きる。」それは、家族として家庭に迎えられた犬にとって当たり前の日常ですが、野犬たちにとっては全くの非日常。人間と暮らしていくために必要な社会化を無理なくその犬のペースで適正に身につけ、より多くの犬たちがリラックスできる環境で穏やかに暮らすことを願います。
参考資料
・犬猫の引取り及び負傷動物等の収容並びに処分の状況概要(環境省 動物愛護管理行政事務提要)
・犬猫の引取り及び負傷動物等の収容並びに処分の状況PDF(都道府県・指定都市・中核市)
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