高齢化社会の進む現代において「高齢者とペットの問題」は地域を問わず、日本各地で社会問題となっています。以前、この問題に対し行政としての取組みを始めた自治体として福岡県古賀市が行う【ペットと暮らすシニアの備えサポート制度】についてお伝えしました。
今回は、民間として全国に拠点のある「社会福祉協議会」の施策、北海道苫小牧市社会福祉協議会が2020年10月にスタートした【犬猫一時預かり事業】をご紹介します。取材をさせていただく中で、ペットが取り残されてしまう状況や背景は、決して高齢者に限ったことではないのだと改めて考えさせられました。【犬猫一時預かり事業】をはじめたきっかけや具体的なサポート内容、現状について、苫小牧市社会福祉協議会 地域福祉課の千寺丸さんにお話を伺いました。前後編に分けてお伝えします。
“北海道苫小牧”という地域と止まっていた課題

地域包括が民生委員やケアマネージャへアンケート調査を行ったところ、入院加療を拒否する方や、野良猫を拾ってしまいご自身の生活が成り立たなくなっている方も増えてきていることが分かりました。しかし、これは5~6年前から把握していたことで、そのアンケート結果を受けて、”どうやってこの課題に取組んでいこうか” という所で止まっていたというのが正直なところです。」
事業化を強く心に決めた”3年前の出来事”

聞けば、退院する当日に”実は犬を飼っていた。多分もう死んでしまっているだろう”と言われたそうで。何とかしてほしいという内容の電話でした。
精神疾患を抱えておられる方でしたが、入院時に相談できるサポート体制があったのかどうかは把握していません。どういう状況であれ、病院側に依頼された以上私たちは依頼に応じる必要があります。地域包括の職員と私の4人で、その方がまだ帰宅される前にご自宅にお邪魔したところ、やはり犬は亡くなっていました。
その状況があまりにも悲惨だったというか、こういうことが現実に起きてるんだということを痛感して、やっぱりこれは早く取り組まないといけないと強く思いました。」
苫小牧には動物愛護センターがないので全て保健所の管轄になりますが、飼い主がいなくなったペットに関して何かをすることは行政や保健所に『難しい』と言われています。
ですが、誰かがやらなくては!という思いがあったので、こうした事業内容ならば出来るのではないか、これでスタートさせよう、と係員全員で考えました。
私たちは民間ですので、行政とどのように連携を図れるかの課題が大きく、実際のところ今もまだ上手くはいっていません。ですが、私たちに出来ることは何かと考えたときに、入院や短期入所の際にペットを一時的に預かることが出来れば、入院することを躊躇しないのではないかと思ったんです。
これだったら一般市民の方にも理解していただける事業ではないかと思い、年度途中ではありましたが半ば強引に始めました。」
ですが、お互い考えていることは一緒だと思うんですよね。
私たちの仕事は人間の話もペットの話もする必要があるのですが、取り残されたペットが生きていけるのであれば、飼い主本人の生きがいづくりを大切にする手段の一つとしてこの事業があってもいいんじゃないかという答えにたどり着きました。
ペットに関する問題はバッシングを受けやすいだろうと思っていたので、そうした心構えは皆で持つようにしました。
もし何か言われたとしても、誰かがやる必要がありますし、始めてみて何か形を変える必要が出てきたらその時に変えればいいだろう、まずは始めてみよう、そういう気持ちでした。」
数パターン作っては上と掛け合うことを繰り返して、何とか理解してもらいました。
周りもきっと色々なケースを想定して心配していたと思いますが、まずはやってみないとニーズが分からないですし、どんな風に展開していくかも分からないので、何かあったらそれはその時に考えましょうと。全国の社協どこもやっていない事業なので、どうしても始めさせてほしいとお願いしました。」
苫小牧市社会福祉協議会「犬猫一時預かり事業」について

当初から私たちが想定していたこととして、元々ペットを飼っていたけども今は自分では飼えないといった高齢者の方も、預かりのボランティアとしてならばもう一度ペットと暮らすことができますし、積極的にボランティアとしてお願いしたいと思って募集をしました。
その結果、60~80代の方が7割ほどを占めており、とても大きなサポートとなっていただいています。
急な当日の依頼でも快諾していただけることが多くて、いつも助けていただいて非常に有難い存在です。
事前に面談を行い、ペットの飼育経験や家族構成、失礼ではありますが収入面などをお伺いして安全に預かっていただくことができるか確認させていただいたうえで、登録していただいてます。
飼い主の入院などによって依頼があれば、その期間のみボランティアのご自宅で預かって飼養いただき、退院されたらペットをお返しします。
犬の場合は散歩の必要もあるので、しっかり散歩ができるボランティアを選んでお願いしています。」
入院日までに面談や事業の説明を行いますので、趣旨をご理解いただいた上で同意書をいただいています。その間に預かりボランティアの調整を行います。」
預ける際に飼い主が事前に用意する身の回り品の説明(フード・ペットシーツなどの消耗品など)
ペット保険の加入状況の確認
その上で必要な金額(大体2,000円ほどのことが多いですが)を少しお預かりした上で代理購入し、購入後は領収書とお釣りを返すという形で対応しています。」
ーーとてもきめ細やかで誠実な対応をしていただき安心ですね。
そのためボランティアの方には、問題が起きた場合やご自身のケガに対して保障できるものが無いという点を説明した上でご登録いただいております。
ペットの飼育経験豊富な方が多いので、今までにトラブルになったケースはありませんが、やはり本来であれば利用者にはぜひ保険に加入していただきたいですね。
預かる方も、預ける方も安心を前提に事業を進めていけたらと思っています。」
ご自身のペットが今どこにいるのかは分からなくても、安全に過ごしている様子や情報だけはお伝えしています。双方にとって安心できる仕組みが大切だと考えています。」
この事業を始めて、苫小牧だけでなく、道内の保護団体や個人ボランティアの方々と連携することができたのですが、こうした方々の協力を得て、新しい飼い主へ譲渡したというケースが現在までに2件あります。」
前編まとめ

犬と暮らす私たちは、家族の一員として犬を迎え慈しむ心を持っています。
今回インタビューに応じていただいた千寺丸さんもまた、私たちと同じように、犬と暮らす愛犬家の一人です。犬を慈しむ気持ちと同じように、ペットに関して不安を抱く人たちの気持ちに寄り添い、熱い情熱を持って取り組まれていることに胸を打たれました。
前編では、事業の開始以前から始動、事業内容についてお伺いしました。
次回は、後編は事業開始後の変化や今後の展望についてをお届けします。
参考:
・苫小牧市社会福祉協議会「犬猫一時預かり事業」(WEB)
・社会福祉法人全国社会福祉協議会(WEB)