高齢者とペットの問題に取り組む! 北海道苫小牧市社会福祉協議会が行う【犬猫一時預かり事業】とは?〜 前編 〜

           

高齢化社会の進む現代において「高齢者とペットの問題」は地域を問わず、日本各地で社会問題となっています。以前、この問題に対し行政としての取組みを始めた自治体として福岡県古賀市が行う【ペットと暮らすシニアの備えサポート制度】についてお伝えしました。

今回は、民間として全国に拠点のある「社会福祉協議会」の施策、北海道苫小牧市社会福祉協議会が2020年10月にスタートした【犬猫一時預かり事業】をご紹介します。取材をさせていただく中で、ペットが取り残されてしまう状況や背景は、決して高齢者に限ったことではないのだと改めて考えさせられました。【犬猫一時預かり事業】をはじめたきっかけや具体的なサポート内容、現状について、苫小牧市社会福祉協議会 地域福祉課の千寺丸さんにお話を伺いました。前後編に分けてお伝えします。

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“北海道苫小牧”という地域と止まっていた課題

enkara:北海道苫小牧市はどのような街ですか?
苫小牧市社会福祉協議会 千寺丸さん(以下、千寺丸さん):「イメージ的には工業地帯が多い港町です。約20年前にトヨタの苫小牧工場ができてから人口が増え始めて、若い方の働く場が増えてきています。高齢化率も29%くらいなので、北海道の中でもまだそこまで高齢化が進む街ではありません。」
enkara:【犬猫一時預かり事業】開始以前のペット問題の状況を教えてください。
千寺丸さん:「全国の市町村にも地域包括支援センター(以下、地域包括)があると思いますが、苫小牧にも7ヵ所の地域包括があります。その中でも、沿岸部という地域柄、野良猫が多く生息する場所に位置する地域包括では、野良猫を飼ってしまう高齢者が多くいるという実態を把握していました。
地域包括が民生委員やケアマネージャへアンケート調査を行ったところ、入院加療を拒否する方や、野良猫を拾ってしまいご自身の生活が成り立たなくなっている方も増えてきていることが分かりました。しかし、これは5~6年前から把握していたことで、そのアンケート結果を受けて、”どうやってこの課題に取組んでいこうか” という所で止まっていたというのが正直なところです。」

事業化を強く心に決めた”3年前の出来事”

enkara:【犬猫一時預かり事業】を始めるきっかけを教えてください。
千寺丸さん:「私が生活支援コーディネーターという業務を担当し始めた3年前のある日、病院から1本の電話があったんです。『入院されていた高齢男性の方が今日退院されるんだけど…』と。
聞けば、退院する当日に”実は犬を飼っていた。多分もう死んでしまっているだろう”と言われたそうで。何とかしてほしいという内容の電話でした。
精神疾患を抱えておられる方でしたが、入院時に相談できるサポート体制があったのかどうかは把握していません。どういう状況であれ、病院側に依頼された以上私たちは依頼に応じる必要があります。地域包括の職員と私の4人で、その方がまだ帰宅される前にご自宅にお邪魔したところ、やはり犬は亡くなっていました。
その状況があまりにも悲惨だったというか、こういうことが現実に起きてるんだということを痛感して、やっぱりこれは早く取り組まないといけないと強く思いました。」
enkara:この問題に対して社会福祉協議会で取り組もうと思った理由は?
千寺丸さん:「生活支援コーディネーター研修の際に、どこかの市町村・社協でこうしたペット問題での事業を行ってるところがあるのか確認したことがあるのですが、やはりゼロだったんですよね。
苫小牧には動物愛護センターがないので全て保健所の管轄になりますが、飼い主がいなくなったペットに関して何かをすることは行政や保健所に『難しい』と言われています。
ですが、誰かがやらなくては!という思いがあったので、こうした事業内容ならば出来るのではないか、これでスタートさせよう、と係員全員で考えました。
私たちは民間ですので、行政とどのように連携を図れるかの課題が大きく、実際のところ今もまだ上手くはいっていません。ですが、私たちに出来ることは何かと考えたときに、入院や短期入所の際にペットを一時的に預かることが出来れば、入院することを躊躇しないのではないかと思ったんです。
これだったら一般市民の方にも理解していただける事業ではないかと思い、年度途中ではありましたが半ば強引に始めました。」
enkara:【犬猫一時預かり事業】をスタートする際の想いを教えてください。
千寺丸さん:「一番最初に考えたのは、保護団体に理解されないのではないかという心配でした。気軽にやってると思われるのではないかと・・・
ですが、お互い考えていることは一緒だと思うんですよね。
私たちの仕事は人間の話もペットの話もする必要があるのですが、取り残されたペットが生きていけるのであれば、飼い主本人の生きがいづくりを大切にする手段の一つとしてこの事業があってもいいんじゃないかという答えにたどり着きました。
ペットに関する問題はバッシングを受けやすいだろうと思っていたので、そうした心構えは皆で持つようにしました。
もし何か言われたとしても、誰かがやる必要がありますし、始めてみて何か形を変える必要が出てきたらその時に変えればいいだろう、まずは始めてみよう、そういう気持ちでした。」
enkara:参考にされた制度などはありますか?
千寺丸さん:「調べてはみたのですが全く出てこなかったので、参考にしたものはないですね。要綱も何パターンも作りました。
数パターン作っては上と掛け合うことを繰り返して、何とか理解してもらいました。
周りもきっと色々なケースを想定して心配していたと思いますが、まずはやってみないとニーズが分からないですし、どんな風に展開していくかも分からないので、何かあったらそれはその時に考えましょうと。全国の社協どこもやっていない事業なので、どうしても始めさせてほしいとお願いしました。」

苫小牧市社会福祉協議会「犬猫一時預かり事業」について

enkara:預かりボランティアについて教えてください。
千寺丸さん:「現在、30代から80代までの市民の方によるボランティアの方が33名いらっしゃいます。
当初から私たちが想定していたこととして、元々ペットを飼っていたけども今は自分では飼えないといった高齢者の方も、預かりのボランティアとしてならばもう一度ペットと暮らすことができますし、積極的にボランティアとしてお願いしたいと思って募集をしました。
その結果、60~80代の方が7割ほどを占めており、とても大きなサポートとなっていただいています。
急な当日の依頼でも快諾していただけることが多くて、いつも助けていただいて非常に有難い存在です。
事前に面談を行い、ペットの飼育経験や家族構成、失礼ではありますが収入面などをお伺いして安全に預かっていただくことができるか確認させていただいたうえで、登録していただいてます。
飼い主の入院などによって依頼があれば、その期間のみボランティアのご自宅で預かって飼養いただき、退院されたらペットをお返しします。
犬の場合は散歩の必要もあるので、しっかり散歩ができるボランティアを選んでお願いしています。」
enkara:利用を希望する際の流れを教えてください。
千寺丸さん:「平常時に事前登録していただくことも可能ですし、もし入院することが決まってからでもご登録いただくことができます。利用は無料です。
入院日までに面談や事業の説明を行いますので、趣旨をご理解いただいた上で同意書をいただいています。その間に預かりボランティアの調整を行います。」
ー 利用者に同意いただく内容や説明ポイント ー 利用中にペットが病気やケガ、死亡した場合に責任は取れないことへの同意
預ける際に飼い主が事前に用意する身の回り品の説明(フード・ペットシーツなどの消耗品など)
ペット保険の加入状況の確認
enkara:利用者が事前に準備したものが足りなくなった場合はどうしていますか?
千寺丸さん:「入院期間などが延びることもありますので、その際に足りなくなった物がある場合には、入院先にお邪魔して状況を説明しています。
その上で必要な金額(大体2,000円ほどのことが多いですが)を少しお預かりした上で代理購入し、購入後は領収書とお釣りを返すという形で対応しています。」

ーーとてもきめ細やかで誠実な対応をしていただき安心ですね。

千寺丸さん:「利用者の多くは家族がいなかったり、友人知人が少ないという方も多いので、こういった部分も含めて誰かがやらないとと思っています。」
enkara:実際にペット保険の加入状況はいかがでしょうか?
千寺丸さん:「利用者には、ペットが預かり先で万が一物を壊してしまったなどの場合のトラブルに備えてペット保険の加入をお願いしていますが、経済的な理由などもありますので中々難しい状況です。
そのためボランティアの方には、問題が起きた場合やご自身のケガに対して保障できるものが無いという点を説明した上でご登録いただいております。
ペットの飼育経験豊富な方が多いので、今までにトラブルになったケースはありませんが、やはり本来であれば利用者にはぜひ保険に加入していただきたいですね。
預かる方も、預ける方も安心を前提に事業を進めていけたらと思っています。」
enkara:ペットの預かり先は利用者に伝えるのですか?
千寺丸さん:「いいえ、全ての状況において利用者と預かりボランティアの間には私たちが入りますので、利用者に預かり先は分からない仕組みです。
ご自身のペットが今どこにいるのかは分からなくても、安全に過ごしている様子や情報だけはお伝えしています。双方にとって安心できる仕組みが大切だと考えています。」
enkara:預かっている間に飼い主が亡くなってしまう可能性も想定できると思うのですが、そうした場合ペットはどうなるのですか?
千寺丸さん:「実際に、飼い主が亡くなられたということもありました。
この事業を始めて、苫小牧だけでなく、道内の保護団体や個人ボランティアの方々と連携することができたのですが、こうした方々の協力を得て、新しい飼い主へ譲渡したというケースが現在までに2件あります。」

前編まとめ

犬と暮らす私たちは、家族の一員として犬を迎え慈しむ心を持っています。
今回インタビューに応じていただいた千寺丸さんもまた、私たちと同じように、犬と暮らす愛犬家の一人です。犬を慈しむ気持ちと同じように、ペットに関して不安を抱く人たちの気持ちに寄り添い、熱い情熱を持って取り組まれていることに胸を打たれました。
前編では、事業の開始以前から始動、事業内容についてお伺いしました。
次回は、後編は事業開始後の変化や今後の展望についてをお届けします。

参考:
・苫小牧市社会福祉協議会「犬猫一時預かり事業」(WEB)

・社会福祉法人全国社会福祉協議会(WEB)

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VISION「私たちは循環する社会の仕組みを創る」

今までの犬と暮らす当たり前や固定概念にとらわれず、新しい情報や価値観を知ることで気づきを得るために、様々な情報発信や活動をします。最終目標として掲げる「循環する社会の仕組みを創ること」を実現するため、ミッションとして、“犬を知る“をアップデートし、より豊かな関わりで犬と人が本質的に繋がり、共に生きる姿を提案します。私たちは、循環サイクルの中でその未来を創造し実現できることを強く願いビジネスを営む社会を目指します。

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