2020年4月1日から2021年3月31日までを対象期間とした、「令和3年 犬・猫の引取り及び負傷動物等の収容並びに処分の状況」について、環境省から統計資料が正式発表されました。
例年この数値をもとに現状を正しく把握、認識すること、その現状から今どんな問題が起こっているのか想定し、何をすべきなのか具体的に考えるためにenkara考察を記事リリースしています。
もちろん、数値はあくまでも指標の一つに過ぎず、この中に含まれていない犬の存在も認識しています。しかし、『数値』という目に見えている部分から、冷静に現状を理解することで、今私たちが取り組むべき課題が見えてくるのではないでしょうか。
闇雲に問題や課題を挙げるのではなく、まずはここから、せめて確実に見えている部分の中からできることを今年も皆さんと一緒に考えていきたいと思います。
前年度から引き続き”犬の殺処分数”が全体的に減少!そこで浮き彫りになったこと
前年度から引き続き”犬の殺処分数”は全体的に減少傾向にあります。
その中でもとりわけ「健康であり家庭で暮らせるにもかかわらず殺処分された頭数」である”分類②”の数値が半数近く減少している点は、とても大きな変化と言えます。(1,270頭→642頭(49.4%減少))
私たちが考える ”殺処分ゼロ” のスタートは、「分類②に該当する ”健康であり家庭で暮らせる犬” の殺処分をゼロにすること」です。
まずは、この”分類②”を”ゼロ”にすることが目下の重要な課題だと捉えて注目しています。
実際に、多くの自治体がその点を認識しているからこそ、この大幅な減少傾向が維持されているのではないでしょうか。
現に今年度、29都府県で分類②の処分数がゼロであり(前年度20都府県)、ゼロではない自治体であってもそのほとんどで大幅な減少が見られました。
また、その傾向は香川県・広島県・山口県など野犬の多い地域であっても同様です。
非常に野犬が多いことで知られる山口県においては、今年度遂に分類②「健康であり家庭で暮らせるにもかかわらず殺処分された犬」の殺処分数がゼロに!
同じく野犬の多い香川県も1,309頭→345頭→107頭と3年連続減少、広島県にいたっては既に数年前から処分は行われていません。
野犬が多い地域では、自ずと愛護センターへの ”引き取り数” も多くなることから、施設は常に余裕のない状態が続いていることが想定できます。
その中で減少傾向を維持している自治体が多く存在しているという点は、近年で最も大きく変化したことの一つではないでしょうか。
また例年、処分頭数の多い県が目につき注目されていませんでしたが、そうした各県が様々な施策を行い軒並み減少傾向にあることで、残念ながら変化の少ない自治体が浮き彫りになりました。
それは、愛媛県です。
”分類②「健康であり家庭で暮らせるにもかかわらず殺処分された犬」”の処分頭数が前年度に引き続き最も多く、47都道府県中200頭を超える分類②の殺処分を行う自治体はいよいよ”愛媛県のみ”となりました。
日本全体での”分類②「健康であり家庭で暮らせるにもかかわらず殺処分された犬」”処分頭数642頭の内、愛媛県が占める割合はなんと1県で3割を超えます。
地域の特性など原因は様々あるかと思いますが、来年以降の数値の変化を見守りたいと思います。
用語「推定野良犬数」とは?・・・enkaraでは、環境省より発表された統計を基に「引取り数(所有者不明)」から、迷子などで飼い主へ返還された「返還数」を引いた数を独自に「推定野良犬数」と捉えています。
殺処分対象になった犬たちを考える
ここまでで殺処分数における”分類②「健康であり家庭で暮らせるにもかかわらず殺処分された犬」”の処分数は年々大幅に減少していることが分かりました。
それでは、次は”分類①「治癒の見込みがない病気や攻撃性がある等譲渡することが適切ではない」”と判断され殺処分となった犬たちに関する数値について見ていきたいと思います。
前年度3,158頭から今年度2,556頭と765頭の減少が見られるものの、こうした分類開示が始まった一昨年から比較しても残念ながら減少の幅が小さいというのが現状です。
治癒の見込みがない病気やケガなどを負っている場合、動物福祉の観点から安楽死という選択肢も考えられます。しかし、”攻撃性がある”という場合については、トレーニングに費やす専門家や時間のリソースさえあれば、その数を減少させることができるはずです。
“分類②「健康であり家庭で暮らせるにもかかわらず殺処分された犬」”で処分される犬たちが年々減少している今、そろそろ”分類①「治癒の見込みがない病気や攻撃性がある等譲渡することが適切ではない」”について考えるフェーズにあるのではないでしょうか。
それでは、攻撃性がある犬たちに向き合うためのリソースが不足する要因となっている背景について考えていきたいと思います。
なぜ攻撃性がある犬たちに向き合うことができないのか?
様々なリソースが不足する根本的な要因として、動物愛護センターに収容保護される”引取り数”が挙げられます。
”引取り数”の内訳として、”飼い主の持込みによるケース”と”所有者不明によるケース”に分けられますが、いずれの数値も年々減少傾向にあります。
当然ながら”引取り数”が減れば、1頭に費やすことのできる時間が増え、施設のキャパシティの増大に繋がります。
”攻撃性がある”と判断される犬たちは、そのほとんどが”所有者不明によるケース”として保護された「野犬」や「野良犬」です。
特に人慣れしていない成犬の野犬トレーニングには専門的な知識と、根気よく継続する時間が必要となるため、他に保護すべき頭数を抱える自治体にとっては非常に難しいというのが現状です。
また愛護センターから認定を受けた保護団体の多くは、団体に登録する一般人(預かりボランティア)が保護犬に新しい家族が決まるまでの間、家庭で一時預かりを行うため上記の専門的スキルを持ち合わせていることは難しく、残念ながら預かり中に逃走や迷子などの問題も度々起きており厳しい現実があります。
推定野良犬数が約3,000頭減少!犬を迎える選択肢に野犬を
enkaraでは、環境省より発表された統計を基に「引取り数(所有者不明)」から、迷子などで飼い主へ返還された「返還数」を引いた数を「推定野良犬数」と捉えています。
今年度の推定野良犬数は前年度に比べ全国で約3,000頭もの減少が見られました。
例年、推定野良犬数の多い上位3県(香川県・広島県・山口県)でも減少傾向にあり、確実に頭数は減っています。
ただ、推定野良犬数は飼い主の持込みによる引取り数の5倍以上の頭数となることから、野犬を減少させることは引取り数そのものを減らすことに直結した重要な課題なのです。
しかし野犬・野良犬は身体能力が高い上、人慣れしていないことから捕獲し保護することは容易ではありません。また犬は短期サイクルで妊娠出産するため、野犬の絶対数の減少には長期的なスケールで見守る必要があります。
野犬は仔犬の方が捕獲しやすいことから仔犬の譲渡も多く、仔犬から犬を家族へ迎えたいという方の希望に沿うこともできます。
成犬でも、家庭犬として譲渡前にトレーニングを受ける犬も多く、高い身体能力でアクティブに犬との暮らしを楽しむことができるといった良い面も多くあります。
<野犬を迎える選択肢>が広く周知され、飼い主の譲渡適性を評価したうえで、”譲渡数を増やすこと”も現時点では欠かせない対応策の1つです。
今年度も約9,500頭が迷子に___迷子にさせない意識の重要性
発表数値の中にある”返還数”とは、飼い主の元に無事に帰ることのできた「迷子犬」の頭数のことです。
引取り数自体が年々減少していることから、一概に増減について読み解くことはできませんが、今年度も約9,500頭もの迷子犬が存在していたことが分かります。
でも、これはあくまでも愛護センターに捕獲され無事に飼い主の元へ帰ることのできた犬たちの数であるということを忘れてはいけません。
迷子になっても愛護センターが関わることがなかった犬たちはこの数の中には入っていません。そう考えると、もっと多くの迷子犬が存在することが分かります。
野犬・野良犬は、もともと迷子、放棄、放し飼いなどをきっかけに野生化したことで生まれた犬たちです。犬と暮らす全ての人がこの事実を自分事として捉え、迷子などから野良犬にさせないための意識を持つことが大切です。
特に避妊や去勢手術を行う前に迷子になった場合、愛犬から発生する野犬が生まれる可能性は誰にでも十分にあることを認識しましょう。
本当にそれって譲渡表記でいいの?誤解を招く”譲渡数”
”譲渡数”は、愛護センターで収容保護された犬に新たな家族が見つかって譲渡された数だと認識している方も多いかと思いますが、実は上記の他に、保護団体へ引き渡しまだ新しい家族が見つかっていない”保護団体一時預かり中”の犬たちの数も含まれています。
日本では、各都道府県の認可(登録)を受けた保護団体(個人ボランティア含む)は、愛護センターで収容保護されている犬を譲り受け、自治体に代わって飼養し新しい家族への譲渡活動を行っています。
保護団体(個人ボランティア)が自治体から委託を受けて譲渡活動を行う、といったイメージが近いです。
ここで、各愛護センターが運営するWEBサイトを見てみましょう。
野犬や野良犬の多い地域の愛護センターは保護頭数や収容頭数も多いため、常時たくさんの「譲渡対象の犬」が掲載されています。
しかしその他の愛護センターは、年間の”引取り数”に対して「譲渡対象となる犬」の掲載が少なく、そのことからも愛護センターから保護団体へ多くの犬が引き渡されていることが推察できます。
現状、<愛護センターから直接新しい家族へ譲渡した犬の正確な譲渡数は発表されておらず、保護団体から新しい家族へ譲渡された頭数の統計もないことから、愛護センターでの引取り数に対しての正確な譲渡数を知ることはできません>。
環境省が発表している資料には、愛護センターから直接新しい家族へ譲渡した頭数と、保護団体へ引き渡した(委託)頭数を合算した数値を”譲渡数”として掲載しています。
公に国が発表する統計資料であることからも、そもそも保護団体へ引き渡した頭数を”譲渡数”に含めている点は語弊があり、譲渡の現状に対して誤解を招く要因となることが懸念されます。
犬を迎える際に譲渡という選択肢が定着した今だからこそ、正確な譲渡数や譲渡の現状を知ることは必要なことだと私たちは考えます。
目に見える数値を知ることで、次に取り組むべきことが必ず具体的に見えてきます。
そのためにも不透明な部分を無くし、社会全体で正しく問題意識を持つことができるよう、今後は【譲渡の内訳がわかる公式情報】が発表されることを願っています。
まとめ
今年度の統計は、コロナ禍で大きな生活様式の変化があった1年間の数値発表となりました。
在宅の時間が増えたことによりペットを飼う人が増え、その結果、安易に手放す人も増えたとの報道がしきりに叫ばれていた中、今回の統計資料を見る限りそのことを数値上から感じることはありませんでした。
目に見えない数値や、一過性の数値の変動、また個人の感想に惑わされることなく、冷静に現状を把握し続けることが大切です。
まずは、皆さんがお住まいの地域の数値を毎年確認してください。
そして数字の増減の背景にどのような地域の問題や文化があるのか考え、今後の動向に注目してください。決して他人事にしないこと。それが失われた命と犬たちの未来に対しての、愛犬家として果たすべき責任ではないでしょうか。
一つずつ問題を紐解き、解決に向けて考えて歩み続けることの積み重ねが、犬たちの幸せとより良い社会に繋がると信じています。
参考資料
・犬猫の引取り及び負傷動物等の収容並びに処分の状況
概要(環境省 動物愛護管理行政事務提要)
・犬猫の引取り及び負傷動物等の収容並びに処分の状況
PDF(都道府県・指定都市・中核市)
2019年4月1日から2020年3月31日までを対象期間とした「令和2年 犬・猫の引取り及び負傷動物等の収容並びに処分の状況」について、環境省から統計資料が正式発表されました。私たちは、今まで公式に発表されている数値を基に、様々な現状を[…]
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