犬と家族になること 〜家族と出会った元野犬たち〜 #3 市川さん&夏子

           

現在日本には多くの野犬たちがいます。動物愛護センターや保健所では、野犬を捕獲し今まであまりにも多くの処分を行ってきました。ただ近年、動物愛護や福祉の観点から、大切な命を家族へ繋げていくために社会化を行い譲渡を促進する動きが高まっています。「保護野犬を家族へ迎えたい」と考えている方をはじめ、「これから犬と暮らしてみたい」という方や多頭飼育を検討中の方へ___多くの日本人に届けたい保護された元野犬と暮らすご家族のインタビュー。野犬の個性や存在を知っていただくために連載でご紹介します。写真を通じ月日の中で移り変わる犬たちの表情の変化と共に、心の変化を感じていただけたらと思います。野犬こそ日本で緊急に保護譲渡が必要な保護犬です。全ての野犬たちが家族と出会い、心地よい環境のもと、生涯あたたかく過ごす未来へ繋がることを願います。第3回は、岡山県で生まれた元野犬の夏子ちゃんとご家族のお話です。

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夏子ちゃんとの出会いについて

(保護当時。右奥が夏子、真ん中が兄弟犬。左奥がセンターで一緒にいた犬)

市川さん:「夏子は、岡山県の山中を走り回っていたところを、兄弟犬と一緒に捕獲された元野犬です。2019年、捕獲された当時はまだ仔犬でした。
殺処分を目前にして保護団体に引き出され、兄弟犬やセンターで一緒に居た犬たちと一緒に保護されることになりました。当時私は、その団体で一時預かり中の犬たちのお世話を手伝っていて、そこで夏子と出会いました。
夏子は人が近づくと、部屋の隅っこやゲージの一番奥に背中をぴったりつけて、震えているような犬でしたが、それでもしばらくして飼い主希望の家族が現れ、兄弟犬と共に、2頭一緒にトライアルへ出発していきました。

(保護当時。右奥が夏子。)

側にいれば安心できる兄弟犬と一緒に家族へ迎えてもらえることを願っていましたが、残念ながら、結果はそうはなりませんでした。

人懐っこい性格だった兄弟犬はすぐに新しい家族に打ち解けることができたのですが、夏子だけは<あまりにも懐かず難しい>という理由で戻されることになってしまったのです。
その出来事を目の当たりにして、とてもショックで・・・『この子は絶対に幸せになって欲しい』と強く思ったのを覚えています。

その後もなかなか譲渡先が決まらなかった夏子でしたが、よくよく夏子の様子を見ていると、【うちの先住犬ルークと合うかもしれない】という直感が沸き、我が家でのトライアルに挑戦することにしました。」

なぜ?犬と暮らしたいと考えたときに野犬を選択したのか__2頭目を迎えるにあたり考えたこと

市川さん:「犬を飼うときに、最初から野犬を迎えようと思っていたわけではありませんでした。
1頭目に迎えたのは、ボーダーコリーのルークです。
当時の私は【日本には殺処分されている犬がいるらしい】というくらいの、本当に浅い知識しか持っていませんでした。それでも、1頭でも多くの命が助かるならと思って、ルークを迎える前に飼い主募集サイトを覗いてみたこともあります。でも、そこで保護犬を迎えるには実際に様々な条件(ハードル)があるということを知りました。
お留守番の時間は1日〇〇時間以内であること、夫婦共働きではないこと、などなど。
条件を確認すると、当時の私たち夫婦の働き方やライフスタイルでは、到底 ”保護犬を迎えること” は難しいもので、その時は保護犬を迎えることを、一度諦めました。

その後、ルークと縁があって家族になり暮らしていく中で、<犬との関係をもっと深めたい>と思うようになりました。
ドッグトレーニングを受けたり、いろんな犬の本を読んだり、飼い主が参加できる専門家のセミナーに参加したりしていくうちに、【犬を知る】ことがとても楽しくなっていったんです。

それまでは、日本にまだ野犬がこんなにたくさんいるということも、殺処分されている犬の多くが、野犬だということも知りませんでしたが、こうしたアクションの中で、動物福祉の考え方や、殺処分をはじめとする犬の様々な問題を知りました。
そして、自分が何も知らなかったことに気づいた時は、本当に愕然として・・・『自分ができることはなんだろう?』と考えて、保護犬のお世話に携わるようになりました。
こうした「犬を知る」過程を経て、改めて『2頭目を迎えるなら保護犬にしよう!』と決意!
保護犬の中でも特に「野犬」であることにこだわっていたわけではありませんが、なにせ我が家の先住犬はボーダーコリー。ルークは毎日たくさんの運動が必要です。
『元気と体力に溢れる野犬だったら、一緒に思いっきり遊ぶことができて、ルークにとっても最高のパートナーになってくれるかもしれない』という思いがありましたが、結果最高のパートナーになりました!」

夏子ちゃんと暮らし始めて3年。今までを振り返って感じること

市川さん:「最近、本当に驚いているのは、夏子の顔が迎えた当時と全然違うということです。
久々に会う人から『夏子ちゃん、顔が穏やかになったね。』と言われることも・・・
迎えた当時は、ベッドの下に隠れて、なかなか出てこないこともありました。
男性に対して特に恐怖心の強かった夏子に対し、夫も自分から不用意に近づくことをしないよう、何週間もの間、夏子のペースを尊重して過ごしていました。
そうしているうちに、あるとき夏子の方から近づいてきてくるようになったんです。
保護野犬を迎えたら、家族の連携や協力がとても大切です。
今は、あの警戒心はどこへ・・というほど、甘えん坊で天真爛漫な性格が炸裂しています。笑
ブラシを持てば、我先にお手入れしてもらおうとすり寄ってきたり、ふかふかした場所が大好きで、畳んだタオルやら座布団やらの上で、ひっくり返って寝たり___犬は言葉を話さないけど、表情や行動に「今の気持ち」が全て出ているんだなと感じます。

実は、夏子を迎えてから『もっと犬が喜ぶ環境で生活したい』と思い、東京を出て自然の多い田舎に移住しました。
自宅にドッグランを作って、土や草の上で思いっきり遊べるようにしてみたら、夏子は穴掘りが大の得意だった!という新しい一面の発見もありました。楽しそうに土を掘っている姿は本当に微笑ましく、私も嬉しい気持ちになります。この子と一緒に暮らせて良かったぁ___と心から思っています。」

保護野犬を家族へ迎えたいと考える方へのメッセージ

市川さん:「保護犬を迎えたいと思う気持ちを、心から応援しています。
そのために<どんな犬を迎えたいか、迎えられるか>ぜひ想像してみて欲しいと思います。
「保護犬」と一口に言っても、十犬十色です。
私たちと同じように、犬も(たとえ同じ犬種であっても)、一頭一頭、バックグラウンドも性格も、ぜんぜん違います。『保護犬だからこうだ』とは絶対に言えないのです。

人に慣れるペースも犬それぞれです。
犬に、良い子も悪い子もいません。ただその子らしさがあるだけ。
犬を迎える時に一番大切な事は、自分とその犬が合うかどうか
だと私は思います。
トライアルがうまくいかなかった先のご家庭では、夏子は扱いにくい困った犬として映っていたかもしれません。ですが、我が家での夏子はみんなの癒し、天使です。
ルークと夏子の様子を見ていても、楽しい遊び仲間であり、お互いにとって大切な存在になっていると感じています。
もし、これから保護犬を迎えようと思っているのでしたら、自分のライフスタイル、家族みんなの考え方、先住犬の性格や相性、用意できる環境、、、etc いろんなことを踏まえて、一番しっくりくる犬との出会いを探して欲しいと思います。

また、過去にトラウマがあるような犬や野犬の場合は、やはり気を遣わないといけない面もあります。特に野犬タイプの犬は、人の暮らす環境に慣れていないので、私たちが気にしないようなことがきっかけでも、急に驚いて逃げたり、何かを追いかけて行ってしまう可能性があります。
犬が本気で走ったら、絶対に追いつきません。
逸走防止は、とても、とても、大切です!
私も夏子の散歩は必ずダブルリードを徹底し、迷子札は家の中でも常に装着しています。
万が一に備えて、居場所が追えるように犬用のGPSもつけています。そのぐらい、『この子を一人ぼっちにさせないぞ!』という気持ちと準備は大切だと思います。」

市川さんにとって”犬と家族になること”とは

愛する、を知ること。
犬が幸せそうにしていたら、自分も幸せな気持ちになります。
犬は、純真無垢に誰かを愛することを教えてくれる存在です。

編集部です。『犬に、良い子も悪い子もいません。ただその子らしさがあるだけ。』
まさにその通り___人懐こいから良い子、言うことを良く聞くから良い子、なんでも食べるから良い子・・・”良い子”ってそもそもなんなのか。
対象そのものではなく、対面する人がその対象と関わった時に”都合が良い”何かがあって、その何かが達成されていると”良い子”という認識になるのかなと思います。だから、良い子の定義は人それぞれ___悪い子も然り。指標はまちまちで曖昧なものです。
全てはただその対象の個性であって、誰かが判断するものでもなく、ありのままの姿や感性がそこにあるだけ。本来それは尊重されるもの。
だからこそ、そのありのままの個性を愛せる相性であることはとても重要なことなのだと感じました。市川さん、貴重なお話をありがとうございました。

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