誰が該当するの?保護犬の厳しすぎる譲渡条件を改めて考える 〜東京都 認定保護団体 譲渡条件一覧〜

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犬を迎える選択肢の一つである”譲渡”。愛護センターや保護団体、友人知人など様々な場所から犬を譲り受けることが出来ますが、譲渡条件や手続きなどについては、その相手や機関によって様々です。それぞれ独自の”譲渡条件”を設けており、そこには譲り渡す側の譲渡に対しての考え方が大きく反映されています。譲渡対象となる犬たちを取り巻く環境や人々のライフスタイルや思考の変化が見られる今、譲り渡す側のスタンスも、社会に合わせて柔軟に変化していくことが求められています。条件が厳しすぎることで、結果譲渡ではなくペットショップから犬を迎えたという話は非常に多く聞かれます。

保護犬の存在や殺処分の問題について、殆どの日本人が認知しているにも関わらず、何故保護犬や余剰犬を迎えられないのか___具体的に今後どのような変化が必要となっていくのか、私たちはまず一般的な”譲渡条件”の基準や背景など現状を知ることからスタートし、改めて皆さんと一緒に考えていきたいと思います。

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動物愛護センターから犬を迎える際の譲渡条件

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都道府県や各自治体が運営している愛護センターや保健所など、主に行政で管轄している施設で保護された犬を迎える場合の譲渡条件は、概ね下記のような条件となることが一般的です。まず初めに『東京都動物愛護相談センター』を例に、譲渡条件を見てみましょう。(※1)

《東京都動物愛護相談センター譲渡条件》
✔︎  都内にお住まいで20歳以上60歳以下の方
✔︎  現在、犬や猫を飼育していない方
✔︎  家族に動物に対するアレルギーを持っている方がいない方
✔︎  飼うことを家族全員が賛成している方
✔︎  最期まで責任を持って飼い続けることができる方
✔︎  経済的、時間的に余裕がある方
✔︎  動物に不妊去勢手術による繁殖制限措置を確実に実施できる方
✔︎  集合住宅・賃貸住宅の場合は、規約等で動物の飼育が許されている方
✔︎  当センター主催の譲渡事前講習会を受講している方

東京都以外の自治体も基本的に、各施設やセンターが主催する講習会への参加を必須とするところがほとんどで、センターのある都道府県に居住していることを必須条件としていることも多く、その地域の県民・市民でない限り、遠方の施設やセンターから譲り受けることが難しいという現状があります。

野犬の多い地域ではセンターで保護収容しきれない頭数を抱えているケースも多く、結果として殺処分という最悪の事態を招いています。犬を迎えたい人が直接センターから譲り受けることができたら…譲渡数が大きく変わることで、処分対象となる犬たちへ費やすことのできるリソースが増え、ゆくゆくは殺処分はなくなるはずです。近年、センターでは譲渡促進のために社会化トレーニングを実施し、家庭犬として受け入れやすい訓練を行う場所も増えてきました。ただ、香川県など一部県外への譲渡も行なっている自治体もありますが、その数はまだ少数であり、今後より多くの自治体へ「県外譲渡も状況次第で可能」とする動きが柔軟に広がっていくことを期待しています。

民間の保護団体から犬を迎える際の譲渡条件

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次に、民間の保護団体から譲り受ける際の譲渡条件を見ていきましょう。日本には相当な数の保護団体やグループ、個人ボランティアが存在しています。その数だけ譲渡条件がありますが、今回もまた「東京都動物愛護相談センター」に認定登録している保護団体を例に挙げて見ていきたいと思います。

東京都動物愛護相談センターに認定登録された犬の保護団体37団体

《問題を感じる譲渡条件一覧 16項目》※室内飼育、医療措置、終生飼育など一般的な譲渡条件は除く

団 体 名 →居住地域の自由ひとり暮らし同棲・ルームシェア高齢者のみ子どもと同居妊娠・出産予定転居・転勤の可能性受験生がいる介護の可能性外国籍ペット可住宅証明書不要固定電話無し長時間の留守番多頭飼い20代夫婦団体加入
特定非営利活動法人 保健所の成犬・猫の譲渡を推進する会×××× ×   ××    
NPO法人 日本動物生命尊重の会××      
特定非営利活動法人 ALMA× ×××         
ECSRN(English Cocker Spaniel Rescue Network)譲渡条件自体WEB表記なし
CAJA(カヤ)の会×         ×     
Friends of animals譲渡条件自体WEB表記なし
HappyLabs(ハピラブ)  ××         
perro×             
一般社団法人 ランコントレ・ミグノン Rencontrer Mignon×× ×        
BCRN(ボーダーコリーレスキューネットワーク)        ×     
ふがふがれすきゅークラブ譲渡条件自体WEB表記なし
Angel’s Taleシーズーレスキューネットワーク× ××          
ジャックラッセルテリアファンクラブ譲渡条件自体WEB表記なし
Dog Shelter×               
犬民宿舎しろいぬの里××× ×   ×    × 
わんにゃん小梅保育園(FARCO)×××           
一般社団法人ケンの家  ××          
イオンペット譲渡条件自体WEB表記なし
特定非営利活動法人アグリドッグレスキュー      ×    
GOGO groomers譲渡条件自体WEB表記なし
一般社団法人ワン・モア・フィールド ×××××       要ペット保険
the VOICE             
アイドッグレスキュー隊 ××          
NPO法人Tier Heim KOKUA ××× ×××  ×(1日3時間)   
公益財団法人 ヒューマニン財団譲渡条件自体WEB表記なし
Sheltie Rescue             
家庭犬のしつけ協会譲渡条件自体WEB表記なし
一般社団法人 台東125(ワンニャーゴ)小さな手            
PEACE BOAT譲渡条件自体WEB表記なし
まちワン×            
特定非営利活動法人SPA譲渡条件自体WEB表記なし
個人活動者(世田谷)WEB無し                
Queue(WEB無し)                
わんにゃんサポートクローバーの会(WEB無し)                
アフガンハウンドレスキュー・ドッグズニューファミリー(WEB無し)                
CATWINGS(WEB無し)                
Loved One D(WEB無し)                

上表を横スクロール(スワイプ)していただくと、問題だと感じる16項目の譲渡条件への該当が「×または△」として確認できます。すべて東京都の認定登録団体ではあるものの、東京都の掲示する譲渡条件以上の”独自の条件”が更に増えていることがお分かりいただけると思います。譲渡条件のスタンスから、その団体の個性や考えを感じざるを得ません。

倫理的に考えられない!矛盾ばかりの譲渡条件

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それぞれの団体によって譲渡条件の考え方や基準、厳しさなどは異なりますが、犬たちを想い幸せを願って設けられた条件であることは間違いありません。しかし、残念ながら10~20年前と同じスタンスでは、少子高齢化の社会や家族構成の変化に対応することは難しくなります。一般的な譲渡条件としてよく見受けられる項目について、現状どんな問題点があるのでしょうか。それぞれ見ていきたいと思います。

高齢者、年齢制限、一人暮らし

譲渡条件の中でも、最も多く目にする項目として「高齢者」「一人暮らし」に対しての条件が挙げられます。万が一飼い主の身に何か起きた際、犬だけが取り残されてしまうリスクを考慮しての項目ですが、無条件に譲渡不可とするのではなく、飼育が困難になった時に愛犬を託せる人を決めておくことを追加の条件としている団体も多くあります。しかし、託す相手にもまた年齢や家族構成の制限を設けていたり、譲渡会やマッチングの場への同席が必須だったりと厳しい条件となっていることも少なくありません。

犬と暮らす上で”終生飼育”は当然の心構えです。しかし病気や経済的な問題など、不測の事態は誰しもに起こり得ることです。万が一の時に愛犬を託す存在は、犬と暮らす全ての飼い主にとって必要な備えであり、決して高齢者や単身者に限ったことではありません。

2025年には日本総人口に占める単身世帯(一人暮らし)の割合は16%となり「6人に1人強が一人暮らし」になる(※2)と言われています。飼育できなくなるという状況をネガティブに捉える風潮も未だ多くありますが、禁止や否定ではなく、困った時に相談できる場所や、そもそも困らないような仕組みを作ることが急務ではないでしょうか。

子ども・妊娠、留守番の有無

乳幼児や未就学、中学生以下など年齢の幅はありますが、「子ども」がいる家庭には譲渡不可という条件もよく目にする項目です。また驚くことに「妊娠の予定がある」場合も譲渡不可としているケースもあります。確かに、小さなお子さんと慣れない譲渡犬との暮らしがいかに大変かは想像に難くありません。更には、どちらか一方に目が行き届かないといったこともあるでしょう。しかしほとんどの団体で、家族の一員として犬を迎えることを条件に掲げている以上、一概に全て譲渡不可という判断をするのは矛盾しているのではないでしょうか。

長時間の留守番をする可能性についても、譲渡条件に入れていることがあります。どのくらいの時間を長時間とするかは団体によりますが、3時間以上の留守番を不可としている団体もあります。一般的に、仕事をしている方の場合には少なくとも5~6時間は家を空けることになると思います。ということは、家族の中に仕事をしていない人がいつもいる、もしくは在宅勤務の人にしか譲渡できないということになります。核家族・共働き世帯がそうでない世帯よりも圧倒的に多い現代社会において、こうした譲渡条件は無理が生じてきているのです。

転居・転勤、同棲、外国籍

「転居予定」についても言及されることが多い項目です。既に転居の予定がある場合は、当然ながら転居後に落ち着いてから犬を迎えるべきです。しかし「転勤の可能性」まで項目として挙げている場合があり、これは先述した「妊娠の可能性」と同様に極めて個人的な内容です。

また、結婚していない「同棲中」の方への譲渡も不可としている団体が多くあります。夫婦に比べて別れる可能性が高い、そしてその際のトラブルなどが過去に多かった背景があるのかもしれません。20代夫婦は夫婦であっても不可としている団体もあります。そもそも犬と暮らす上で「同棲中」と「夫婦」の違いはほとんどなく、別れる可能性は同じように存在します。家族のかたちは人それぞれ考え方があり、尊重されて然るものです。核家族や子どもの有無をはじめ、事実婚やパートナー制度など、個人を尊重し多様性を認めようとする社会に向かっています。同じように外国籍についても、夫婦どちらかが外国籍の場合不可とする考えを持つ団体や、外国籍の場合、親族限定で保証人もしくは後見人を立てることとするものまであります。

家族構成や家族のかたちを譲渡条件として挙げること自体、あまりにも偏見的で配慮がなくナンセンスなことではないでしょうか。

収入証明、個人情報取り扱い

譲渡条件の中には、「一定の収入がある」という項目を設けていることが多々あり、犬を迎える際に余裕のある所得はあたりまえのことではありますが、行き過ぎた条件提示や確認を行うケースもよく耳にします。今回例に挙げた東京都の登録団体の中にはありませんが、収入を証明するための”給料明細”や”口座残高”を提示するよう求めている団体も少なくなく、このような条件を提示する団体には極めて注意が必要です。また収入証明以外にも、極めて個人的な情報については聞き出すこと自体、配慮に欠けたデリカシーのない行動と言えます。譲渡を希望する新しい飼い主は、審査時に氏名や住所などの個人情報を渡しています。

譲り渡す側は、重要な個人情報を扱っているということを念頭に置き、個人情報保護法(※3)に則った管理をしていることが大前提
です。何のために必要な情報なのか、集めた情報をどのように管理しているのか、第三者へ漏れることはないのか___個人情報の扱い方も団体へ必ず確認するようにしましょう。

厳しい条件よりも大切なこと

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犬たちが新しい家族のもとで幸せになって欲しい、決して不幸になって欲しくないと願う気持ちはよく分かります。きっと過去の経験や教訓から、犬たちへのリスクを減らすために追加されていった条件だと思います。しかし、どんなに譲渡条件を細かく設定し厳しくしても、「絶対」や「完璧」ということは残念ながらありません。

”一人暮らし”でも”高齢”でも、立派な飼い主は沢山います。”小さな子ども”がいても、犬と素敵な関係を築いている家族も沢山います。今までは一般的だった譲渡条件も、こうした方々と犬たちとの縁を阻むことに繋がるのです。現代に合っていない譲渡条件を見直す段階に、今まさに来ているのではないでしょうか。

どのような譲渡条件も、そのベースにあるのは「万が一、何かが起こった時に犬たちが不幸になるのではないか」という視点です。飼育が困難になる可能性は誰にでも起こり得ることで、犬との暮らしを考えた時に飼い主として必ず想定しておくべきことです。それならば、不測の事態が起きた時に対応できる環境を整えておくことが譲渡条件を厳しくすることよりも重要だと考えます。”終生飼育”という言葉だけに囚われず、飼育が困難になった時に相談しやすい環境が、今最も必要なことではないでしょうか。

まとめ

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東京都の認定登録団体の中にも、一概に譲渡条件を設けず、マッチングの際に十分なヒアリングを行なうことで、譲渡の判断やその環境に適した犬を紹介しているという団体もあります。そもそも生活様式や家族構成が多岐に亘り変化している中で、一律の譲渡条件を設けることの方が難しいのかもしれません。実際、私の周りを見渡しても譲渡条件を全てクリアする家庭は存在しません。その人には、その家族には、どんな犬が相応しいのか?どうすればその犬との暮らしが安心してスタートできるのか?条件ありきではなく、犬と飼い主を主体とした譲渡を促進して欲しいと思います。家族・パートナーとして犬を迎え、これから10年以上共に生きるのは飼い主です。譲り受ける相手や機関によって考え方が全て違うという事を念頭に置き、多様な選択肢の中から最も安心できる関係の上で犬との出会いがあることを願っています。

参照
※1 東京都動物愛護相談センター「東京都動物愛護相談センターから譲渡を受けるには」WEB
※2 国立社会保障・人口問題研究所「公表数値」WEB
※3 個人情報保護委員会WEB

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